2)個人商店のつながりの一部として
「パン屋秋日和」清水秀一さん2
真鶴出版の川口さん、來住さんと移住者の話になると、真っ先に名前があがるのが秋日和だ。移住のきっかけは真鶴出版に泊まったことだし、ハード系のパンをつくってくれるパン屋は自分たちの生活にほしいと思っていた店だった。迎える側にとっては、とても嬉しいことだろう。
だからふたりにとって、秋日和のことは他人事ではない。本当に美味しいと思って、好きで毎日のように買っているし、宿泊の朝食でも秋日和のパンは定番メニューだ。ことに來住さんは、雨降りのような客足が遠のく日は「パンが残っているんじゃないか」と心配になって仕方がないという。
まだ開店して半年に過ぎないが、清水さんは真鶴出版をはじめ、まちとどのように関わっているのだろうか。
———真鶴出版には移住する前から、気持ちを後押ししてもらいましたね。こっちに来てからは、結構お店に来てくれるので、そこで会話する感じ。妻はこの間、來住さんと一緒に味噌つくってましたが。
パンを焼くペースがつかめていないのもあって、僕はまだ、店からそんなに出られないので、移住者の知り合いとか多くないんですよ。港の近くでやっていたときは、近くのイタリアンレストランでパンを使ってもらったりしていたんですが、カンパーニュみたいな食事パンをメインでやっていきたいので、これから使ってくれるところがあればいいなと思っています。ワインと一緒に合わせてもらったり。
真鶴にワインバー、できたらいいですねという話で盛り上がった。
ひとつ店ができることで、またひとつ「こんなところがあったら」と具体的な理想が見えてくる。それは飲食店に限った話ではない。清水さんが聞いたところによると、かつては駅前の通りに映画館があったし、本屋もあった。現在は真鶴出版が本屋の役割を担っている部分もあると思うが、「あったらいいな」と話していたら、そのうち本屋さんもやってくるのかもしれない。
———今はむしろ、移住者より地元のお客さんが多いんですけど、ひとが優しいですね。真鶴は個人商店が頑張っている地域だし、横のつながりも感じてて。僕もその一部としてやっていきたいなっていう気持ちがあります。今はとにかく、自分のパンづくりを頑張ってやっていきたい。
食べるものをつくるとは、生活をつくることそのものだ。
真鶴出版がいう「小さな、気持ちのいい経済圏」は、秋日和が加わったことで、あらたなつながりが生まれ、いっそう豊かに育まれている。秋日和から始まる、次の変化を楽しみに見ていきたい。