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アネモメトリ -風の手帖-

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特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#66
2018.11

これからの図書空間

1 群馬・太田市美術館・図書館
3)さまざまに体感されるアート

同館を訪れた8月、美術館にて開催されていた企画展は「ことばをながめる、ことばとあるくー詩と歌のある風景」というもの。1階は詩人最果タヒのことばを3人のグラフィックデザイナーがそれぞれのアプローチでグラフィック化した作品が、2階の通路には管啓次郎による「WALKING:歩き、よみ、考えるための本」と題され、展示コンセプトに沿った書籍が壁面を埋めつくしている。その先には詩人管啓次郎と美術作家佐々木愛によるコラボレーション作品が続き、最後にたどり着いた3階のスペースでは太田市にゆかりのあるの歌人、大槻三好・松枝夫妻のことばと惣田紗希によるイラストレーションのコラボレーション。いずれもことばをテーマにした、この美術館ならではの展示である。

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最果タヒと佐々木俊、祖父江慎、服部一成

最果タヒと佐々木俊、祖父江慎、服部一成

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佐々木愛と管啓次郎 / 大槻三好・松枝と惣田紗季

佐々木愛と管啓次郎 / 大槻三好・松枝と惣田紗希

大きくわけて3部構成となった展示を見終えると観客はいつの間にか館の最上階に立っている。そのあいだ階段やクローズドな空間がほとんどなく、ときに図書館部分を通過しながら移動するため、美術館にいる感じがしない。
反対に図書館スペース2階の半分近くを占めるアートブックのコーナーに目をやれば、いわゆる美術書の範疇を超えたタイトルが目に飛び込んでくる。手漉き紙にシルクスクリーン印刷を施したハンドメイド本で知られるインドのタラブックスの絵本がディスプレイされ、独立系出版社から刊行された現代アートとイラストレーションの中間的作家のアートブックが目に飛び込んでくる。優れたアートブックは、それ自体がひとつのアートであることがここの棚を眺めればよくわかる。

管啓次郎の選書展示

管啓次郎の選書展示。この館の蔵書を使いつつ、多くをモエレ沼公園から借りている

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キュレーションひとつで図書館の蔵書も、展示物になり得る。絵本やアートブックは複製品であると同時に作品でもある。高価なコレクションを所蔵せずとも、工夫ひとつで企画展は成立するのだ。予算をいかに消化するかではなく、少ない予算や限られたコレクション、空間をどのように使うかという知恵がこの施設にはある。本来それは民間企業やインディペンデントなギャラリーや店の発想であり、武器であったはずだ。それを市立の施設が軽やかに実践していることが健全に思えるのは、自分が書店経営者だからだろうか。