アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#65
2018.10

生活と表現が育まれる土壌

後編 NPOアートフル・アクションの日常 東京・小金井
4)「たったひとり」からはじめる

プロジェクトは、何らかの目標を達成するための「計画」を指す。目標があるということは、はじまりと終わりがあるはずだが、アートフル・アクションの活動は、さまざまな事柄が絡まりあい、日々くり返される「営み」に近い。設立10年目を迎え、これからの目標のようなものはあるのだろうか?

———目標を据えてしまうと、それ以外が見えなくなってしまうんですよね。ゴールに向かおうとするプロセスのなかで、これはいる/いらないと、可能性を切り捨ててしまうのはもったいない。だから、小さな問いと仮説を立てては行き当たりばったり(笑)。でも、不具合や不自由、楽しそうだなと思うことをものすごく丁寧に積み重ねていったら、いまの時代の雰囲気が滲み出てくるし、政治性を帯びるときもあるかもしれない。そうやって、ひとつひとつ真摯に向き合って生きるほうがきっと楽しい。わたしは退屈が嫌いだから、どうせなら楽しいほうへと思っているだけなんです。
最近は、いろいろなひとがつくることや出会うことを自分でできる心と身体をつくれたらいいなと思っていて、何よりもわたし自身のためにそういう場をつくりたいと考えています。アーティストがどのようにものごとに出会い、テーマを持つのか。彼らの制作と表現に伴走しながらそれを解体して、わたし自身もリサーチや制作をする。もう自分でもつくらないとダメなんじゃないかなって。
わたしたちは高度経済成長以降、消費することだけをやってきていて、いつの間にか自分でできることがすごく少なくなってしまいました。出来事や状況を安易に価値化せず、ひとが世界と向き合うそのひと自身の目を失わないように、考えて、やってみて、また考えてみる。そろそろ自分の手足の感覚を取り戻していく必要があると思います。それは「一個人」として、つまり裸ん坊のそのひととしてできることをやってみるということで、そこには成功も失敗もない。そのときすべてのことは学びになるんじゃないかと思うのです。

前編でお話しを伺った生活工房の竹田由美さんが「一生活者」として考えるということを、くり返し語っていたことを思い出す。両者には、まず「たったひとり」という原点に立ち返ろうとする態度がある。わからなさをじゅうぶんに味わって、つくりながら考えるために。そう考えると、活動のわかりにくさというのは、真摯さのあらわれなのかもしれない。わからないままで動き続ける勇気、そしてそれを支える環境が、ここにはある。
自分で考えてやってみる、困ったら誰かに声をかけて一緒に悩んでもらう。その運動が続いていったら、きっと日々は気づきに溢れ、ふいに見晴らしのいい場所に立つことができるのだろう。

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アーティスト・淺井裕介さんとともに行った、道路用の白線を用いた『植物になった白線@小金井』(2010年〜2012年)。市民スタッフらによって「白線隊」が結成され、個人宅やお店の軒先、商店街、小学校など、そこに暮らすひとたちと一緒に制作を行った。いまでもまちを歩いていると、こうしてふいに出くわすことがある。

 

NPOアートフル・アクション
https://artfullaction.net

取材・文:川村庸子(かわむら・ようこ)
1985年生まれ。編集者。ABI+P3共同出版プロジェクト『言葉の宇宙船 わたしたちの本のつくり方』、Art Support Tohoku-Tokyoジャーナル『東北の風景をきく FIELD RECORDING』、復興公営住宅での音楽と記憶のプロジェクト『ラジオ下神白–あのときあのまちの音楽からいまここへ–』、学生とつくる武蔵野美術大学広報誌『mauleaf』など、さまざまなプロジェクトに伴走しながら編集を行っている。

写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。

編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。