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アネモメトリ -風の手帖-

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#56
2018.01

まちと芸術祭

4 札幌国際芸術祭2017の公式ガイドブックを片手に(第4日目)

伊藤さんからは、「長征-すべての山に登れ」の作者としての貴重な指摘もいただいた。これも許可をもらったので以下、掲載する。

福永さんに来ていただいたときは、モエレ山の頂上には子供用自転車のほかに、三輪車はありましたか。
実は頂上では、山の中心に向かって子供用自転車が並んでおり、大きさは中心に向かうにつれて小さくなり最後は三輪車になるのです。
が、作品設置直後(芸術祭の開始の1週間前)から、(おそらく)ヤンキーの若者たちが公園の柵を乗り越え夜中に登山をするのか、その三輪車等が無くなったり、どこかに移動する事態が多々起きているのです。(どういう情熱かは理解できませんが。)
ですので、実はすでに芸術祭のオープニングで、頂上の部分の(福永さん言われるところの)「ゴール」は紛失(というか消滅)していたのです。

それを聞いた芸術祭事務局の皆さんは、すでに40箇所以上の会場対応にてんやわんやのため、悲しげな微笑みと共に視線が宙を舞うばかりで、会期中は、伊藤と公園の学芸員・宮井和美さんと、ヤンキーくんたち(推定)の表現活動との追いかけっことなりました。
モノがガラクタなのでどーこーいうのも野暮ですし、僕としても町で作品を発表することというのはこういうことだろうなぁと半分面白がったりしていました。福永さんがお越しになった際に、どういう状態だったのかはよく分からない状況です。お詫び申し上げます。

前回(第3回)にも書いたことだが、モエレ山の山頂の自転車の先頭は、子ども用自転車2台だった。「三輪車」などなかった。そういえば、子ども用の自転車2台が並んでいたのは、山頂の中心ではなくて、ややズレた位置にあった。中心には何もなかった。そこに「三輪車」が本来ならあったというのである。ヤンキーくんたち(推定)によって撤去されてしまったようなのだ。
しかし、今、その「三輪車」が見えるような気がする。
どうしてだろう。見てないのに。
ヤンキーくんたちの姿さえ目に浮かぶ。会ったこともないのに(ヤンキーくんなのかどうかもわからないのに)。
伊藤隆介と、モエレ沼のキュレーターが、目に浮かぶ。作品の損壊というふうに杓子定規に事態を受け取らないで、「追いかけっこ」として、豊かなパフォーマンスのように読み替えていくその姿が浮かぶ。
メールの文章を読みながら、ありありと浮かんでくる。「ゴミ」から表現を汲み出すアーティストの目線がここにある。

先に述べたように、わたしは、「芸術祭ってなんだ?」と大友に問われたら「展示を見逃してもくやしく思わなくなることだ」と答えるつもりだ。だが、今は、そのあとに、こう付け加えようと思っている。「展示を見逃してもくやしく思わない。なぜなら、見逃しても、芸術祭の〈読者〉になることはできるからだ。作者や、見たひとが、文章を書き、ウェブサイトやツイッター、どこでもいいがそれを公表し、見逃した作品を文章で読むことが、きっとできるからだ」

全4回のこの文章も、そんなひとつになればいいと思う。

ガラスのピラミッド内の展示は全部見落としたくせに、その前で記念撮影はする筆者

ガラスのピラミッド内の展示は全部見落としたくせに、その前で記念撮影はする筆者

札幌国際芸術祭2017
http://siaf.jp
取材・文:福永 信(ふくなが・しん)
1972年生まれ。小説家。『アクロバット前夜』(2001/新装版『アクロバット前夜90°』2009)、『あっぷあっぷ』(2004/村瀬恭子との共著)『コップとコッペパンとペン』(2007)、『星座から見た地球』(2010)、『一一一一一』(2011)、『こんにちは美術』(2012/編著)、『三姉妹とその友達』(2013)、『星座と文学』(2014)、『本とその周辺をめぐる、6か月とちょっとの旅』(2016/編集)、『小説の家』(2016/編集)、『カワイオカムラ ムード・ホール』(2017/編集)。2015年、第5回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。