アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#136
2024.09

食文化を次代につなぐ 女性たちの、生きる知恵

2 津軽あかつきの会 「かっちゃ」の台所 青森県弘前市(津軽地方)
5)女性たちの大きな家族、宝の会

客間でいよいよ食事会がはじまり、めいめい料理に舌鼓を打っているところ、ときどき休憩室のほうからメンバーたちの楽しそうな声が響いてくる。今日の料理のこと、身の回りのこと、暮らしのこと、他愛のない話に興じながらまかないを食べるのも、会の恒例だそう。

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料理中も、ひと段落ついたところで、お茶を入れて休憩。お菓子づくりが得意なメンバーはふるまったり、お互いの野菜づくりの近況を話したりと、笑いの絶えない時間。工藤さんも一緒に会話に加わる

———ここは、ひとつの女の家族みたい。家だと姑さん、お嫁さんがひとりずつ。でもここには何人もいるから、聞きづらいことは聞きやすい人にすればいい。あっちゃには、手取り足取り教えるではなくて、食べて味見しながら覚えてもらう。逆に、若い人たちからわたしたちも吸収するものがあるんで。わたしたちも教えるだけじゃなくって、やっぱり若い人の力も借りながら進めていかないと、伝承になっていかないんで。(森山さん)

会のメンバーは多くは地元出身だけれど、北海道や秋田、福島の生まれの人もおり、だいたいは弘前市内に住む女性たちで構成されている。なかには母親の出身が弘前であることをきっかけに、鎌倉から2ヶ月に1度程度に通う人もいる。どの人も、会に集まった理由はさまざまだ。
例えば、この日に参加していた長尾さん。あかつきの会に加わったきっかけは、食事会に訪れたことだという。

———小さいときからここの(土地の)料理さ大嫌いだったの。田舎育ちだから「今日は山菜だ」って言われると「えーー、まだ(また)?」って。けど、年を重ねてからあかつきの会のことを教えてもらったとき、とりあえず食べてみたいって思って。その日は公民館で食事会を開いていて、獅子舞がやってた。で、食べたら美味しいんだ。なんで、こんな美味しいものを今まで美味しくないって思ってたんだろうって感動したの。ひとり涙流しながら食べた、すごいと思った。そこから「手伝いにこない?」って。

地元の料理に飽き飽きして、親に山菜とりに連れて行かれるのも嫌だった彼女は、その代わり人一倍山菜に詳しい。いまでは、山菜採りのときには先陣を切って草むらに分け入るというからおもしろい。副会長の森山さんのように会をたばねるかっちゃもいれば、遠方から年に数度だけ通うかっちゃや、畑仕事が忙しくなかなか参加はできないが採れたての野菜を持ってくるかっちゃ、長年活動をしている人もいれば「まだ新人」自称するかっちゃと、関わり方もさまざまだ。出自も、年代も、会員になったきっかけも同じではないけれど、彼女たちは料理をすることで結ばれている。

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真ん中が長尾さん。小さい頃から自然に身についた知恵が、会での活動に活かされているようだ