4)沁み入る味、体感する知恵
ひとりでつくる料理ではないから、間違いにみんなで気づき、わからないことはみんなで悩む。レシピをひらくことや、工藤さんに聞きにいくこともあるが、最終的にみんなの舌で判断してゆく。副会長の森山さんは、こう話す。
———決まってるレシピはあるんだけども、やっぱり素材のやわらかさとか硬さとか、煮たときによっても違うじゃないですか。食べた食感から、これはもうちょっと塩を足したほうがいいなとか、控えたほうがいいなとか。料理番組みたいに、はい何グラム、何グラム、ではいかないんで。素材そのものの味があって、甘みやうまみがあればそれでもだいぶ違ってくるので。みんなで食べてみて、揉めて、決める。そうして、いい塩梅を決めるのがここのやり方。
森山さんの直筆によるこの日のメニュー。12品にぎっしりと津軽の春の味わいが込められている。とりどりの品を前に、さてどれから口をつけようか悩ましい。箸が進むほど、新鮮な素材の味が口福に重なっていくのが嬉しい
「サメと大鰐温泉もやし和え」。湯がいたサメの薄皮をはぎ、すり鉢ですってクリーム状にし、湯通しした大鰐温泉もやし、キャベツと酢味噌で和える。もやしの爽やかな食感とともに、コクのあるサメの風味でしっかりとした食べ応えも
「いがめんち」にはみじん切りしたにんじん、キャベツなどが入る。家によって味付けなどが違うが、あかつきの会ではゲソを使う。 かきあげのような揚げ物は、和え物のときに取り除いた大鰐温泉もやしのヒゲ。食感楽しく土っぽい香りが鼻を抜ける
「ぬかにしん」。にしんを糠に漬け、糠を落としてからグリルで焼く。糠床で発酵することでにしんのうまみが際立ち、かっちゃたちが「ご飯がすすむ味」と話す通り。これもかつては保存食として工夫された、知恵のつまった一品
「ミズの水物」。北東北で採れるミズの、根のふくらんだ部分と茎を食べる。茹でることでピンク色からあざやかな緑色に。水物とは、津軽地方では昆布を浸した塩水に食材を浸けた料理のこと。山の風味を閉じ込めた、すきっと清々しい副菜