アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#132
2024.05

境界をなくす 福祉 × デザインの「魔法」

1 まほうのだがしや チロル堂のしくみ 奈良県生駒市
4)福祉×デザイン 支援の新しいかたち

チロル堂を始めたのは、奈良県在住の4人。大阪府や奈良県でアートスクールなどを営む「アトリエe.f.t.」代表で、クリエイティブディレクターの吉田田(よしだだ)タカシさん、奈良県東吉野村のクリエイティブファーム「オフィスキャンプ」代表の坂本大祐さん、生駒市で放課後デイサービスなどを提供してきた一般社団法人「無限」代表理事の石田慶子さん、そして生駒市内で「たわわ食堂」や「和草(にこぐさ)」など、地域の子どもに向けた活動を行う溝口雅代さんだ。アートやデザインの視点を福祉に生かすことで、これまでにない、画期的なしくみが立ち上げられた。

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左から石田慶子さん、吉田田タカシさん、坂本大祐さん(溝口雅代さんは7月号に掲載)

2022年、チロル堂は立ち上げからわずか1年でグッドデザイン大賞を受賞した。応募総数5,715件から、他を圧倒する得票数で選ばれたという。大企業なども多数エントリーするなかで、誰もが驚く快挙だった。
逆にいえば、チロル堂の試みは、それだけ社会に求められていたということでもあるだろう。受賞後は各地からの視察が絶えず、多くのメディアにも取り上げられている。

本当に支援が必要な子どもたちのために、何をしたらいいのか。
彼らが目指したのは、「どんな子どもたち」も集まりたくなる居場所づくりだ。それによって、貧困や孤独などの問題を抱える子どもたちも自然にサポートできる。困っているから行くのではなく、そこが楽しいから毎日のように通う。18歳以下の子どもだけが使える店内通貨は、大人たちがチロル堂に集い、かかわることでまかなわれる。店内に貼られた、たくさんの「チロル堂大好き」という子どもの声、そしてスタッフや「チロる」大人たちの笑顔が、ささやかなプロジェクトの大きな可能性を物語る。

次号では、石田さん、吉田田さん、坂本さんの話を聞きながら、このプロジェクトがどのようにして生まれ、展開されているのか、その背景もひもときつつ、チロル堂のありかたを考えていきたい。

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子どもたちの声に、大人たちのチロ。店内はいつも賑やかだ

まほうのだがしや チロル堂
https://www.tyroldo.com
取材・文:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年東京都生まれ。京都在住。会社勤務を経て2013年よりフリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト等で企画・編集・執筆を行う。編著に『たくましくて美しい糞虫図鑑』『たくましくて美しいウニと共生生物図鑑』(創元社)『小菅幸子 陶器の小さなブローチ』(風土社)など。
写真:成田舞(なりた・まい)
山形県出身、京都市在住。写真家、二児の母。夫と一緒に運営するNeki inc.のフォトグラファーとしても写真を撮りながら、展覧会を行ったりさまざまなプロジェクトに参加している。体の内側に潜在している個人的で密やかなものと、体の外側に表出している事柄との関わりを写真を通して観察し、記録するのが得意。 著書に『ヨウルのラップ』(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/
編集・文:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。