アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#132
2024.05

境界をなくす 福祉 × デザインの「魔法」

1 まほうのだがしや チロル堂のしくみ 奈良県生駒市

本誌はこれまで、さまざまな場づくりを取り上げてきた。子どもと大人がともに学び合う、公民館的に多くの人が自由に集えるなど、それぞれが意義深い取り組みだ。
取材を重ねるうちに、こうした場づくりが各地にも起こって、ゆるやかにつながる未来を予感してきた。その過程では、居場所を必要とする人に、場がひらかれていることも大切になってくる。

社会がスマートになるにつれ、行政や民間団体などが提供する場も増えてきた。食事が摂れる、悩みを相談できるなどコンテンツは多様だが、そこに誰もが辿り着けるわけではない。周囲の目もあれば、家族への気遣いもある。自尊心もある。支援が必要であるにもかかわらず、その手が届かない場合も少なくない。昨今よく耳にする「生きづらさ」は、この状況を映し出す言葉でもあると思う。

切実な課題を乗り越えるべく、立ち上げられた場がある。奈良県生駒市の「まほうのだがしや チロル堂」(以下、チロル堂)。ごく小さな店は、何より楽しくあろうとする場所だ。
その名の通り、入ってすぐは駄菓子屋だが、ただの駄菓子屋ではない。子どもたちは、お金がなくてもお腹いっぱいごはんを食べられて、お菓子を買える。店の奥のカウンターと小上がりのようなスペースには子どもがひしめきあい、好きなように時間を過ごす。そして、ここでは時に子どもと大人の立場も逆転する。境界を取りはらい、自由に行き来できるよう、さまざまな工夫が重ねられている。

子どもも、大人も、気兼ねなく居られる場所を。

チロル堂を運営しているのは、福祉、デザイン、アートの分野で活動する3人のメンバーだ。まさに「魔法」のしくみを考えだし、試行錯誤しながら展開している。チロル堂のしくみとその背景をひもときつつ、場を運営するなかで、地域の子どもや大人とのかかわりを育てながら、地域社会にも変化を及ぼすようすを伝えていきたい。

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チロル堂を立ち上げ、運営する3人。左から吉田田(よしだだ)タカシさん(「アトリエe.f.t.」代表)、石田慶子さん(一般社団法人「無限」代表理事)、坂本大祐さん(奈良県東吉野村「オフィスキャンプ」代表)