アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#120
2023.05

ゴミを「自分ごと」化する

2 生活者の目線から 「くるん京都」の取り組み 
5)素朴な疑問と向き合い、実感を伝える

最後に、くるん京都のメンバーが絶賛するボードゲーム「みんなのごみ」を紹介したい。このゲームは、プレイヤーたちがとあるまちの住民になって、そのまちの最終処分場が灰でいっぱいにならないように協力し合ってクリアを目指すという、誰かが勝って、誰かが負けるということがない協力型のゲームだ。そもそも、なぜゴミを減らすのだろう?  そんな根本的な疑問に、小学生からお年寄りまで誰もが楽しみながらじっくりと向き合える。
最終処分場の建設や維持には莫大な費用がかかる。寿命を少しでも伸ばすためには、プレイヤー自身がゴミの知識を増やし、プレイヤー同士のコミュニケーションを深め、協力してゴミを減らすしかない。副読本の「ごみを減らすための80のアクション」には、そのヒントとなる具体的な方法や詳しい背景が紹介されている。
お弁当をつくる、物でなく体験をプレゼントする、宿泊先で使い捨てのアメニティを使わない……ほんの少し、意識をゴミに傾けるだけでも、ゴミを減らすことにつながる。ゲームを夢中で楽しんでいるうちに、日頃意識することのないゴミの行く先に思いを向け、振り返って身近なゴミを見直してみたくなる。

20230218-0018

20230218-0032

「みんなのごみ」はNPO法人環境安全センターの大関はるかさんが、身近なゴミが最終処分場にいくまでを想像してくれる人を増やしたいという思いから制作した。家族や友人とゲームを楽しみながらゴミについて考える時間を持ってほしいと、手づくりボードゲームチーム「たなごころ」と協働。ゴミの収集運搬やゴミ処理場、環境NPOなど、ゴミに関わる現場で働く10人近くの多様なメンバーとともに、ブレストやテストプレイを繰り返し、3年がかりでつくりあげた

最近、くるん京都の仲間入りをした高松さんは、こうしたさまざまなゴミ減らしのアイデアを周囲にも広めたいが、上からのアドバイスに聞こえるのではないかと懸念する。他のメンバーは家族や友人にどんなふうに伝えているのか知りたいという。

———私はあんまり言わないかもしれないです。職場や外出先で竹歯ブラシや、マイカトラリーを使ったり、仲の良い子にはハンカチのお祝儀袋でお祝いを包んだり、それなりに楽しそうに生活していると、何それ? 便利だね、って興味をもってくれたりして、自分の周りの半径数メートルに少しは広まっているところがあるのかなと思います。家でコンポストのトートバッグを見て、生ごみコンポストをはじめた友人には、すごく感謝されました。(小川さん)

———私はメリットを強調して伝えるようにしています。生ごみがなくなると臭わなくて気持ちいいとか、マイ容器で買うとコーヒー豆をこぼさないですむとか。あと、人にものを渡す時は布袋や米袋をリユースしたり、紙に包んだり、工夫しています。そんなことで何か伝わるかも。(佐藤さん)

くるん京都のメンバーたちは、楽しく心地よく取り組めるゴミ減らしを、身近なところから地道に積み重ねてきた。なぜこんなにプラスチックゴミが増えるの? そんなに立派な容器や包装が必要? ゴミを減らせば、もっと心地よく暮らしやすくなるのでは? そんな素朴な疑問と向き合い、自分たちの買い物を見直し、周囲の店にも働きかけた。それは、すでに取り組みを進めている人やお店を応援することにもつながり、少しずつ輪が広がっている。この動きに共感し、自分も同じように行動したい、自分の暮らすまちにもそんな店が欲しいと考える消費者や小売店は、これからますます増えていくのではないだろうか。

次号では、生活まるごとでゴミを「自分ごと」化している服部雄一郎さんと妻の麻子さんの暮らしを紹介する。雄一郎さんは、小川さんがくるん京都の最初の一歩を踏み出すきっかけとなった『ゼロ・ウェイスト・ホーム ーごみを出さないシンプルな暮らし』の翻訳者でもある。高知県香美市に移住し、無理なくのびのびと循環する暮らしを実践、発信しているおふたりにお話を伺った。

くるん京都
https://www.kurunkyoto.org/
取材・文:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年東京都生まれ。京都在住。会社勤務を経て2013年よりフリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト等で企画・編集・執筆を行う。
写真:津久井珠美(つくい・たまみ)
1976年京都府生まれ。立命館大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。クライアントワーク以外に、人々のポートレートや、森、草花など、自然の撮影を通して、人や自然、写真と向き合いながら作品制作を行っている。https://www.instagram.com/tamamitsukui/
編集:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。
ディレクション:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。