5)道後でアートを続けるということ
これまでも、これからも「ひかりの実」を
毎回かたちを変えながら続く道後温泉のアートプロジェクトのなかで、唯一、初回からずっと変わらないプロジェクトがある。道後公園で行われるイルミネーション作品、髙橋匡太の「ひかりの実」だ。果実袋の中にLEDを仕込んだ3000個ものひかりの実を道後公園の木に吊るしたもので、髙橋が各地で行う「ひかりの実」プロジェクトの中でも最大となる。夜の公園に4色のLEDの光がたわわに実る果実のように浮かび上がる光景は、道後の冬の風物詩としてすっかり定着した。髙橋匡太が「もはや僕がいなくても続いてる」というほど、プロジェクトはまちのものとなって受け継がれている。
初回の立ち上げから現在に至るまで、道後温泉のアートプロジェクトには、いつもキーマンはいなかった。大成功を収めた初回の道後オンセナート2014やターニングポイントとなった日比野克彦のプロジェクト、道後オンセナート2022や来年のクラフトフェアでも、行政、商店街、旅館組合、地域住民、そして地元の若者といった立場が異なる考えがせめぎあい、それでも地域をなんとかしたいという思いでプロジェクトをかたちにしてきた。
7年の長期にわたる保存修理工事の間隙にアートが介入したことで、これまでできなかったこと、今しかできないことが試されて、そこから生まれたものが、また次の世代へと手渡されていく。道後温泉のアートプロジェクトは、それぞれの思いで関わるロングスパンの取り組みになりつつある。
2024年には、長かった道後温泉本館工事が終了する。大竹伸朗の素屋根テント膜の下から130年前の姿の道後温泉本館が現れると、道後のまちは元の風景を取り戻す。
2024年以降のアートプロジェクトの行方について聞くと、誰もが「白紙だ」と答え、そして同時に「続いていくだろう」と答える。変わらなさと新しさを抱えながら、道後温泉の湯は、日々月日を洗い流して日々生まれ変わっている。湯上がりのまちに吹くアートの風が、まちのなかに、人々の中に、新しい眼差しを手向ける。
「十年の汗を道後の温泉に洗へ」―正岡子規―
https://dogoonsenart.com/
取材・文 :坂口千秋(さかぐち・ちあき)
アートライター、編集者、アートコーディネーターとして、現代美術のさまざまな現場にプロジェクトベースで携わる。WebマガジンArt Scapeで「スタッフエントランスから入るミュージアム」を時々連載中。カルチャーレビューサイトRealTokyo編集スタッフ。ボランタリーアートマガジンVOID Chicken共同発行人。
写真:成田舞(なりた・まい)
1984年生まれ、京都市在住。写真家、1児の母。暮らしの中で起こるできごとをもとに、現代の民話が編まれたらどうなるのかをテーマに写真と文章を組み合わせた展示や朗読、スライドショーなどを発表。2009年 littlemoreBCCKS写真集公募展にて大賞・審査員賞受賞(川内倫子氏選)2011年写真集「ヨウルのラップ」(リトルモア)を出版。
編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集と執筆。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の編集・執筆を中心に、それらに関連した展示やイベント、文章表現や編集のワークショップ主宰など。最新刊の編書『辻村史朗』(imura art + books)。編著に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など、聞き書きに『ありのまま』(リトルモア)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。