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アネモメトリ -風の手帖-

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#65

観察のすゝめ 
― 早川克美

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(2014.06.01公開)

日常は、私たちが都合よく取り付けた意識のフィルターを通した世界でしかない。目の前に起きていることも、自分で意識的に、時には無自覚に取捨されて自分の世界を形成している。頭の中で理解している世界とは、自分だけの世界なのだ。しかし、日常の世界とは、当然ながら自分だけのものではない。今以上に、日常を他者と共有し、相手に共感する、自分に共感してもらうためには、いつもの自分のフィルターから離れて、客観的な視線を意識的に持つ必要があるだろう。私が「日常を観察すること」を授業で取り上げることには、こうした理由がある。「観察」とは、自分が(または他者が)普段、意識していないことに気づくことであり、自分以外の誰かのために、誰かの身になってその人に共感する手法である。

観察から見えてくることのひとつは「見過ごされてきた事実」だ。ものすごく当たり前なんだけれど大切だと意識していなかったことが観察を通じてわかることがある。もうひとつは「定義づけした問題点の問題」が見えてくること。問題だと思っていたことの背景に、もっと別の根本的な問題があったことに気づくことである。つまり、観察によって、自分の価値観や先入観から視野を解放し、他者と交わり共感・共有するための感性を鍛えることができるのだ。

観察はただ見ていればいいというものではない。全身が触角になった気分で、身の回りのモノや出来事に接していただきたい。これは何だろう、今まで気付かなかったけれどどうしてだろう…という様々な発見に出会えることだろう。その繰り返しの中でやがてあなたは観察の面白さに気づくはずだ。そして、必ず記録にとること。写真を撮る、メモを書くといった方法で、後で見返せるようにしておくことが重要だ。この「見返せる」ことは、自分の行為や思考を可視化することにつながり、経験や気づきを体感的に自分自身の中に定着することにつながる。自分の中の思考の引き出しを増やしていくイメージだ。
自分の頭の中だけの先入観や価値観、メディアに出ている情報を鵜呑みにするのではなく、「目の前の現実にこそ答えを見つけていくまなざし」を、育んでくれるものだといえよう。

以上、観察の有用性について述べてきたが、最後に観察する上でのポイントを整理するとつぎのようになる。

◯先入観や今までの価値観にではなく、目の前の外の世界の現実に従う。
◯「わかる」ことは重要ではない。「わからないこと」にこだわる。
◯「今」にとらわれない、広い視点を持つ。
◯頭の中だけで考えない。言葉や形を視覚化して組み立てる。

観察を生活に取り入れて、漫然とした日常からの脱却を是非、おすすめしたい。