アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

最新記事 編集部から新しい情報をご紹介。

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

このページをシェア Twitter facebook
#19

ポータブルレコードプレーヤー
― 八木良太

(2014.06.05公開)

『針を落とす』という言い回しがノスタルジックな響きを持つようになって、『巻き戻す』という言葉がそもそもの意味を失いつつある今、レコードやカセットテープなんて懐古趣味だと思われてしまうかもしれない。それでもレコードやテープは、今でも僕に単なる懐古趣味を超えた発見と驚きを与えてくれる。
高校生の頃に、コロムビアのGP-3という当時からしてもレトロな雰囲気のあるレコードプレーヤーを買った。コンパクトな7インチのポータブルタイプのレコードプレーヤーを2台、それと同じ形のミキサーを1台、それで簡単なDJのセットが出来上がる。内蔵スピーカーと簡単な速度調整のツマミもついているし、乾電池で動く(けれど、単一乾電池が6本も必要)。そしてなにより手荒に扱っても壊れない頑丈なプレーヤーだった。TechnicsやVestaxのターンテーブルは高くて買えなかったというのもあるけれど、この赤と白のプラスチックの筐体が“レコード”を鳴らすにはピッタリだと思った。

しかし、喜び勇んでレコードをかけようとしてもうまくいかない。今考えると信じられないようなミスだが、中心から針を落としていたからだ。それからレコードを前後に動かして遊んでいたら、初めて買ったレコードは裏面が傷だらけ、レーベルは最初の失敗で引っ掻いた白い渦巻きの跡が付いてしまった。そして、なぜこの黒い板からいろんな種類の音が生まれるのかとても不思議に思った。それはCDを聞いていた時には生まれなかった疑問だった。それが僕の初めてのレコード体験であった。

それ以来、レコードを月に数枚買うようになった。田舎住まいだったので近所に欲しいレコードを売っている店もなく、大阪のレコード屋から毎月送られてくる新譜のリストを片手に試聴用に編集されたカセットテープを聞き、限られた小遣いの中でどのレコードを買うか必死に迷った。大きなレコードジャケットを見るのも楽しみのひとつで、気に入ったものは部屋に飾っていた。

大学に入ってからはレコード収集の熱も少しは冷めたが、いつも部屋のどこかにこのプレーヤーは置いてあったし、音楽との付き合いが途切れることはなかった。
作品をつくるようになってからは、初めてレコードに接したときのように、好奇心の対象として音そのものと接することになる。手っ取り早く実験をするのにこのプレーヤーは向いていた。ややこしい配線をしたり、丁寧に扱わなければいけないものだったとしたら、面倒で制作なんてしてなかったかもしれない。そんなわけで、作品でも幾度となくこのプレーヤーを使っている。今でもポータブルレコードプレーヤーは色々売っているけれど、個人的な思い入れが強く、GP-3を見つけては何台も買ってしまっている。「どうして音がするんだろう?」と最初に浮かんだ疑問は、ずっと解決しないまま今に至っている。

WalkmanがDiscmanになり、MDになり、iPodになり、iPhoneになって、いまでは音楽の大半はMacの中に入っている。旅行に出かけるときに、どのCDを持って行くか迷うこともなくなった。
レコードを聞くことは限られた人の音楽の特別な楽しみ方になってきた。しかし、CDの売り上げが低迷する中、昨年のレコードの売上げはここ数十年で1番の伸びを見せている(2013年のレコードの売上げは31%増)。どうやらこれからもレコードが消えることはなさそうだ。そんな世情と関係しているわけではないけれど、先日初めてソノシート(薄いレコード)を発注した。日本では東洋化成が最後まで製造していたのだが、すでに生産を終了しており、随分と探しまわってようやくイギリスのプレス会社に発注することができた。初めての自作のレコードはどんな音がするのだろう。

僕が生まれた1980年に製造が開始され、日立からコロムビア、DENONへとブランドは転々としたがデザインは一切変わらなかった。そしてついに2005年にGP-3はひっそりと生産を終了した。

GP-3

八木良太(やぎ・りょうた)
1980年愛媛県生まれ。2003年京都造形芸術大学空間演出デザイン学科卒業。音響作品をはじめとして、オブジェや映像、インスタレーションからインタラクティヴな作品まで、多様な表現手法を用いて制作を行なう。モノの機能や属性を読み替え、再構成して関係性や価値を反転させたり、経験や記憶を新たなコンテクストで再生させる。主に音や文字、時間を題材に作品を制作。主な個展に「Time Parallax」無人島プロダクション(東京、2013年)、「高次からの眺め」無人島プロダクション(東京、2011年)、「エマージェンシーズ8 八木良太 ”回転”」 NTTインターコミュニケーションセンター(東京、2008年)、グループ展に「日常/オフレコ」 神奈川芸術劇場(神奈川、2014年)、「trans×form ─ かたちをこえる」国際芸術センター青森(青森、2013年)など多数。2014年7月にうつのみや妖精ミュージアムにて、12月に神奈川県民ホールギャラリーにて個展予定。
http://www.lyt.jp