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アネモメトリ -風の手帖-

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#80

チョコレート型
― 宮本篤

(2019.08.05公開)

中村、栗本、宮本の3人が集まって「USHIO CHOCOLATL」というチョコレート工場が2014年、広島県尾道市の向島に誕生した。
5年経った現在、その小さなチョコレート工場の名は「知っている人は知っている、知らない人は知らない」くらいの存在になった。
僕らの事を知った人からは「型破りなチョコレート屋」と形容されることもしばしば。
「型を破ろう」と思ったことは1度もない。
「新しいカタチを創ろう」とは毎日毎秒思っていて、「肩をほぐそう」と何百万回思ったかは数え切れない。
カカオ豆と砂糖だけで作るチョコレートを販売するぞと決めた2013年の冬、僕ら3人はとあるバーのカウンターで呑んでいた。
チョコレートを製造し販売するとして、どんなカタチのチョコレートにするのか。
「チョコレートのカタチ」について熱い議論を交わしていた。

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3人ではじまる物語なので3という数字に愛着があって、誰が言い出したかわからないが「六角形はどうだろう」という話になった。
六角形は三角形が6つ集まってできる。
中心に向かって1つ飛ばしで三角形を3つ並べて外角を結ぶと六角形になる。
僕ら3人が「チョコレート」という中心に向かって、それぞれが歩んできた物語を背負い、独立した立ち位置で引っ張っていくのだ。
六角形がたくさん集まれば、自然界で形成されるカタチの中で「強く拡がる」ハニカム構造(蜂の巣構造)となる。これから多くの人を巻き込んで強く大きく拡がっていきたい僕らにとって、これは最高のカタチだった。
さらに言うと、平面的ではなく立体的な世界で関係を築いていきたいと考えていた。サッカーボールは六角形の集合体だった。
何かに蓋をしてしまったり陽の当たらない底ができてしまう「箱」ではなく、六角形がたくさん集まれば角の取れた立体「球」になる。
地球、白血球、メロリンキュー。この世界は球なしでは語れまい。
チョコレートのカタチは六角形に決まった。
「まずは手に取ってもらわないとはじまらない」「キャワワと言われてなんぼ」そんな意見の中、不意に辿り着いた六角形というカタチから、僕らが芯にするべきものが見えてきた。

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僕らは当初から、チョコレートを食べてもらうのではなく(実際、食べてはもらうのだが)、「僕らの物語を食べてもらおう」と提案し続けている。
今日インターネット上で頼んだものが明日手元に届く。これほどまでに流通が発達した現代社会に飲み込まれないように(実際、チョコレートは飲み込むのだが)、ウシオのチョコレートにしかないカタチが欲しかった。
物は同じようなものが手に入るかもしれないが、語りは唯一である。受けとる側次第でも千差万別に変化する個性なのだ。
「カカオ豆の産地別に個性の違うチョコレートを楽しんでもらいたい」そんな僕らの思いを、物語を知ってもらう入口が六角形というカタチだ。
知り合いが3Dプリンターを使って、チョコレートの「型」のデザインを作ってくれて(どこぞの大学に忍び込んでやってくれたらしい、確か京都造◯なんたら大学だったかな……ジョークですよ)、食品用のシリコンを使ってひとつひとつ手作業でチョコレートを流し込む型を作った。

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いまだに1つずつ手作業で型を作っている。乾かさないといけないので、1日2個しか型が作れない。
その型にチョコレートを流し込むのもひとつひとつおたまですくってスケールで測りながら手作業で行っている。

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六角形というカタチなので、チョコレートのパッケージを包む作業も手作業だ。銀紙でパッケージした後に紙でパッケージをする。特殊な折り方なので、この作業を他のシーンで活かせるという機会は一生に一度あるかないかだろう。

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長い物語を経て出来上がっている六角形というカタチのチョコレートを誇らしく思っている。
チョコレートのカタチの話だけでも、ここには書ききれない物語がたくさんある。
チョコレートができるまでの様々な工程に、細部まで僕らの物語が潜んでいるので、それはいつかくるであろう書籍化の時まで温めておこう(広辞苑くらいの厚さが必要かと思うので、なかなか書籍化は難しいだろう)。

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2019年の11月に5周年を迎えるUSHIO CHOCOLATLに僕の姿はない。
この5年で描いた物語に新たな1ページを加えるべく新天地大阪へゆくのだ。
僕ら3人がUSHIO CHOCOLATL という1つのカタチを作った。
これからの世代には、是非とも、そのカタチを破って「新しいUSHIO CHOCOLATL」の物語を描いて、僕を楽しませて欲しい。
「型破りなチョコレート屋」と呼ばれるのはこれからだ。


宮本 篤(みやもと・あつし)

チョコレートピエロ / MCねこぜ / 芋男爵
1981年生まれ兵庫出身。
2011年に東北の震災がきっかけで東京の編集プロダクションを退社し、自転車で西に向かい姉の住む尾道にたどり着く。
義兄と共にNPO法人を設立し「リヤカーゴ」という移動販売カーゴを開発、マルシェなどを開催しながらもモジモジ過ごしていたところ、中村に「一緒にチョコレートを作ろう」と誘われ、2014年に「USHIO CHOCOLATL」を立ち上げる。
夢と現実の垣根をなくす「ピエロ」に憧れて「チョコレートピエロ」と名乗り、チョコレートの世界を通して、垣根を取っ払い脳天に直撃するようなチョコレート体験を提案し続ける。
USHIO CHOCOLATLのメンバーで構成されるヒッピホップクルーChemiCal CookersではMCねこぜとして全国でライブ活動も行う。
20198月にチョコレートピエロを引退。
「農園さんが1番のアーティスト」というUSHIOでの考えもあり、9月からは大阪の蜜香屋で芋男爵と名乗り、サツマイモ作りを通して新たな1歩を踏み出す。