アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#74

多彩な技法を駆使して制作を楽しみ、伝統的な着物のすばらしさを伝える
― 村田佳子

(2019.01.05公開)

草木染の糸を使い、さまざまな技法を駆使して着物を織る村田佳子さん。数カ月かけて織り上げた色鮮やかな作品は、軒並み公募展で賞を獲得し、高く評価されている。しかも、村田さんは、着物の制作をはじめて6年ほどしか経っていないという。彼女はどのような経緯で着物を織るようになったのだろうか。また、優れた作品を生み出しつづける秘訣はどこにあるのだろうか。話を伺うと、作品をつくるうえで誰もが持っているある思いが見えてきた。

《空 海 大地》 ハワイ島の大自然のコントラストを着物に織り込んだ

《空 海 大地》 ハワイ島の大自然のコントラストを着物に織り込んだ

———ご自身の作品の特徴を教えてください。

街の中を歩いていて気になったものや旅先で見た景色、身近な自然など、自分が目にして素敵だと思ったものを作品に取り入れています。テーマはいつも、多彩な色と光です。
たとえば《空 海 大地》は、ハワイ島で見た大自然をモチーフにした作品です。赤茶色の溶岩台地、緑と赤の植物、真っ青な海とどこまでも続く空。ふりそそぐ太陽の光。その美しいコントラストに感動して、このような色で表現しました。
そしてこの作品もそうですが、作品には無地の部分を必ず入れるようにしています。いわゆる「ま」を大切にしています。全体に派手な柄や色があると、見ていて落ち着かないですし、空白あるからこそ柄が引き立つと思っています。

《夕陽燃ゆ》 館山から見た富士山に沈む夕日を鮮やかな色彩で表現

《夕陽燃ゆ》 館山から見た富士山に沈む夕日を鮮やかな色彩で表現

———作品の色はどうやって染めているのでしょうか?

どの作品も、草木染をした糸を使っています。草木染の抽出方法は色々ありますが、私は藍の生葉や紅花以外は、ほとんど植物の皮や実、枝などを寸胴鍋で煮て色を抽出し染めています。同じ植物でも媒染剤により違う色に染まるので不思議ですよね。自然の草木を使うと、季節や採取した場所によって、自分のイメージしていた色とは違うこともありますが、自然の色はどの色に染まってもきれいですね。草木染は赤色といっても、その赤の中に、色々な色が混ざっていて、何ともいえない深みがあって、優しい感じがします。
化学染料は、赤でも青でもまさにその色なので、ひとの目を刺激するような強さがありますね。以前、館山の海で見た燃えるような夕日を作品で表現したくて、経糸の型染にオレンジ色の化学染料を使ったことがありました。緯糸には茜、刈安、丁子で染めた草木染の糸を使ったのですが、経糸のオレンジの色が強すぎて織っていて疲れました。作品を見た方からは珍しい色合いで面白いと言っていただけましたが、また同じような作品をつくるときには、もう少し化学染料の調色を学ぶ必要性があると思っています。

《春のおとずれ》

《春のおとずれ》

《春のおとずれ》の模様部分。色とりどりの糸を使い、緻密な組織織りで複雑な模様を描いている

《春のおとずれ》の模様部分。色とりどりの糸を使い、緻密な組織織りで複雑な模様を描いている

———織りについてはどんな特徴がありますか?

織りの技法に関しては、ひとつのものを極めているわけではありません。ほとんどの作家さんは得意分野が決まっていて、絣の中でも十字絣が得意だったり、綴れ織りをつくり続けていたり、得意な技法を追求されています。そのため、緻密で正確で少しのずれもなく、作品の完成度がとても高いですね。本当にすごいことだと思います。
わたしの場合は、とにかく自分が着たいものをつくっていますし、まだ知りたいこともたくさんあるので、新しい技法を学び、それを取り入れているので、毎年のように作風が変わっています。
自分がつくりたい作品はどのような技法を使えば表現できるのか常に考え、それを最優先しています。

大学院修了作品《彩の華》。秩父銘仙の伝統工芸技法「経糸捺染ほぐし織」を取り入れた

大学院修了作品《彩の華》。秩父銘仙の伝統工芸技法「経糸捺染ほぐし織」を取り入れた

———秩父銘仙の技法を使った作品もあるそうですね。

大学院修了作品の《彩の華》は、秩父銘仙の伝統工芸技法「経糸捺染ほぐし織」という技法を使っています。この技法は伝統工芸士の菊池康夫氏に教えて頂きました。捺染といえば、布に型を置いて染める型染が一般的ですが、この技法は、まず経糸を荒く「仮織り」をします。それを織機からはずし、糸にテンションをかけながら型染めをし、蒸して色を定着させます。
これを再び織り機にセットし、仮織した経糸を解しながら織っていくのです。仮織と捺染後の解し織と2回織ることになるので、とても手間がかかりますが、自由な図柄を表現でき、さらに糸を解すときに模様が微妙にずれて絣のようになるので、普通の捺染では出せない温かみと動きが出ます。仮織りの経糸に捺染する技術や、ほぐしながら織るために糊の濃度や染料の配合が難しく、何度も失敗を重ねながら織り上げました。

初夏のおとずれ八つ縄文織_1(1)

八つ縄文織 淡海.あふみ_2018文部科学大臣賞

いずれも「八つ縄文織り」で織り上げた作品。上から《初夏のおとずれ》、《淡海(あふみ)》、《朝霧》

いずれも「八つ縄文織り」で織り上げた作品。上から《初夏のおとずれ》、《淡海(あふみ)》、《朝霧》

———「八つ縄文織り」の作品は、続けて3作品も制作されているんですね。

「八つ縄文織り」というのは、長野県の諏訪地方で古くから伝えられてきた伝統的な織りの技法です。織りで表現できる幾何学的な柄が、力強くて華やかで、惹かれるものがありました。この柄には多くのバリエーションがあって、さらにある法則を使えば、拡大、縮小が自由自在にできるのです。その仕組みをパソコンの表計算ソフトで体系化した高木義一郎氏のことをインターネットで知り、諏訪まで教えてもらいに行きました。
わたしはもともと数学が好きなので、この法則に従って柄をつくっていく「八つ縄文織り」は、織っていてとても楽しかったです。ほかの織りで模様をつくる「組織おり」も、自分の性格に合っている気がします。「八つ縄文織り」の着物は、2017年から18年にかけて3作品つくりましたが、公募展ではすべての作品で賞をいただくことができました。

———着物の制作はどのような手順で行うのでしょうか? また特に難しいところはどこですか?

織り始めるまでで、7割が終わっている感覚です。特に難しいところは、やはりデザインです。まずそれを決めて、それから設計図にあたる組織図や織順を描いて、糸計算、染色、整経、綜絖(そうこう)通し、筬(おさ)通しなど、織る前にいくつもの作業があります。なかでも複雑なのは、経糸を1本ずつ、織り機の綜絖という細い針金の穴に通していく作業です。これは「綜絖通し」といって、およそ38センチの間隔に、組織図にしたがって1050本~1200本も通さないといけないのです。とても緻密で根気のいる作業で、通し方が1本間違っても正しい模様ができないので、何度も確認しながら進めていきます。そのあとの筬通しも細かい金目の間に本づつ入れていくので、このところ視力も衰えているので、やはりこれも大変な作業です。
ここまでくれば、あとは反物をたんたんと織っていくだけです。1反が3カ月かかるとしたら、織りにかかる期間は1カ月くらいですね。織っているあいだは、余計なことを考えずに集中できるので、心が休まります。経糸と緯糸の組み合わせで思いがけない素敵な色になり、心がうきうきしたり、気分がいいときには予定していたより柄を多めに入れたり、最初のデザインと違ってくることも多々あります。反物が織りあがったら、まず整理に出し糊を落としてしなやかにし、仕立て屋さんに織順とデザイン図を渡して仮仕立てをしてもらいます。織っている最中の偶然も楽しんでいるので、完成したものは想像以上に面白いものになったりします。

東京の自宅に設置してある織り機。高層ビル群に面した窓で機を織る

東京の自宅に設置してある織り機。高層ビル群に面した窓で機を織る

蓼科の別荘にて。自然に囲まれたベランダで〝染め″の作業を行う

蓼科の別荘にて。自然に囲まれたベランダで〝染め″の作業を行う

———どのような環境で制作されているのでしょうか?

基本的には東京の自宅で制作しています。高層ビルが見える窓に面して、織り機が置いてあります。草木染をするときはキッチンを使うので、10リットルの寸胴鍋が限界です。
長野県の蓼科(たてしな)に別荘があって、織機も1台置いてあり、ベランダに屋台で使うようなガス台を2台設置して30リットルくらいの大容量の寸胴鍋をかけることができるので、大量に染めるときはここを使います。つくりたい作品に応じて、東京と蓼科を行き来してつくっています。

エリスマン邸

村田さんが着物を制作する以前に織っていた作品

村田さんが着物を制作する以前の作品

———染織作品をつくろうと思ったきっかけを教えてください。

今から20年くらい前に、たまたまカルチャー教室で、弥生式の織機を使って織るということを募集していました。そこで、そのクラスに参加して織ってみたら、すごくゆったりした気分になりました。〝織りというのは、経糸と緯糸を1本づつ細かく組み合わせて、模様をつくっていきます。その緻密な作業に集中すると余計な思考が消えて、自分だけの世界に入っていけるように感じたのです。写経をしている状態に似ているかもしれません。そこで、自分にはこの〝織りというものが合っていると実感したのです。
それまでわたしは、多くのひととの交流会やパーティーに参加するような環境で生きてきました。ひととコミュニケーションすることが好きだと思っていたのですが、本質はそうではなく、自分ひとりで集中できる世界が好きだったことに気がつきました。それが50歳ぐらいのときです。
それからは自然染織のグループに入り草木染、織や組などを学び、タペストリーのような作品をつくるようになり、美術館でのグループ展にも参加しました。ハワイ大学の敷地や、ホノルルミュージアムでのイベントに参加したこともあります。

———それから、着物をつくりたいと思うようになったのですね。

そうですね。もっと本格的に織りの技術を習得して、子どものころから好きだった着物を自分でつくってみようと思ったのです。それで、2010年に京都造形芸術大学の通信教育部染織コースに入学しました。
なぜ着物が好きなのか? と考えてみると、わたしの実家は、着物を織る機屋(はたや)だったのです。小さい頃から絹織物に囲まれて育ち、工場からは機を織る音がいつも聞こえていました。母は常にきれいな着物を着ていましたし、わたしも日本舞踊や三味線などを習っていたので、よく着物を着ていました。だから着物は身近にありましたし、懐かしさもあり、自然と好きになったのでしょう。でも自分が織るようになるなんて思ってもみませんでした。

大学院修了作品《彩の華》を着ている村田さん

大学院修了作品《彩の華》を着ている村田さん

———子どものころから着物を着る環境で育ったのですね。着物を制作する目的は、村田さんご自身が着たい着物をつくるということでしょうか?

わたしが着物を織っているのは、自分が着るためですが、もうひとつ大きな理由があります。日本の伝統的な着物の良さをひとりでも多くの方に知っていただき、後世に継承したいという願いがあるからです。日本にはすばらしい着物があるのに、日常生活で着る機会はほとんど失われてしまっています。だからこそ、多くのひとにもっと着物を身近で見て、その美しさを知ってほしいと思っています。
ですからわたしは、できるだけ自分で織った着物を着て出かけていますし、作品展に出したりしています。作品展などで出会った方に、織りや染めの技法を説明すると「日本の伝統的技法のすごさをあらためて感じる」といった感想をいただきます。また外国の方々も着物の伝統的な染織技術にとても興味を持ってくださるので、海外に行くとよく着物についてお話をしています。これも「日本の伝統的な着物のすばらしさを伝えたい」と思っているからです。

村田さんがはじめて制作した着物《暁》

村田さんがはじめて制作した着物《暁》

———はじめて制作したのは、どんな着物ですか?

大学に入って1、2年は基礎的な技法を学び、3年生のときにはじめて着物をつくりました。それが《暁》という作品です。茜や丁子などの自然染料で染めた糸を使い、ピンクと黄色のグラデーションをつくっています。黄色で光を表し、光の当たり方によって色が変わるようすをグラデーションで表現しました。
それにこの作品は、柔らかなピンク色を着物に使ってみたいと思ってつくりました。絣の着物によくある地味な色合いではなくて、自分の好きな明るい色にしたかったのです。つくっていて楽しいと思えることが、特に大事だと思っています。着物の制作は、職人さんが分業でつくっているものと違い、ひとりだと1反に何カ月もかかりますし、楽しくないと続かないですね。

《彩あそび》 遊び心のある色彩豊かな模様を絣で表現

《彩あそび》 遊び心のある色彩豊かな模様を絣で表現

———村田さんが心から感動したものを作品にしているんですね。その作品がいくつもの公募展で受賞するなど高い評価を得ています。どういったところが評価に繋がっていると思われますか。

公募展に出している作品も〝絶対に賞を取ってやろうという気持ちでつくっているわけではないので、賞をいただけることに驚いています。受賞すればもちろんうれしいですが、それよりも自分が着たい着物をつくるという意識のほうが大きいのです。こうすれば審査員に気に入られるだろうと思ってつくるよりも、自分が好きなものを突き詰めたほうが、かえって高い評価をいただける気がします。
大学院のときにつくった《彩あそび》は、最初に公募展に出品して賞をいただいた作品です。街なかで見かけた、ある有名ブランドのセーターの多彩な編み込み模様がとても素敵だったので、こんな華やかないろどりの着物を着たいな、と思ってそれを参考にアレンジしました。
これは糸を括って防染し模様を出す絣(かすり)という技法を使っているのですが、絣を専門にやっているような作家さんからは、絣の緻密さにかけている、といわれるかもしれません。でもわたしがいちばん表現したかったのは、多彩な色絣の流れのフォルムです。このカラフルな絣の色は緯糸で出しているのですが、経糸にも緯糸の絣と色が調和するように緯糸と同系の色糸をつかい、あわせて20色以上草木染の糸をつかっています。無地に見える部分にも、よくみるとたくさんの色が組み合わさっています。
今までにない遊び心のある楽しい彩り絣の作品が評価されたのだと思います。

柔らかな手触りの「座繰り糸」を使って制作中の作品

柔らかな手触りの「座繰り糸」を使って制作中の作品

———現在、制作している作品について教えてください。

今は「座繰り糸」という生糸を使って作品を織っています。座繰り糸は、繭から機械ではなく、ひとの手で糸を引くので、ふわっとした真綿のような柔らかさがあります。着心地のいい着物をつくりたいと思って、この糸を使うことにしました。
先ほどお話した、《暁》という作品は、経糸は生糸で緯糸は真綿の紬糸に1本生糸を巻き付けた紬糸をつかっています。この紬糸は丈夫で扱いやすいのですが、はじめて着たときに「うわあ、重たい」と感じました。2作目の《空 海 大地》は経緯糸とも前作より細い生糸を使いました。すると軽くなったのですが、少し硬い風合いになりました。その中間のちょうどいい着心地になるのが、座繰り糸で、柔らかさと軽さを備えています。
手作業ですから大変な手間暇がかかるので、つくっているところは少ないのですが、それでも、諏訪の岡谷市にある製糸会社が手がけているというのを知って、つくってもらいました。技法は八つ縄文織りに絣を組み合わせています。着物にして着るのが楽しみです。

取材・文 大迫知信
2018.12.02 新大阪にてインタビュー

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村田佳子(むらた・けいこ)

1970年聖心女子大学文学部外国語学科卒。その後、4人の子どもを育て、50歳のころに染織作品の制作をはじめる。着物を織る技術を学ぶため、2010年に京都造形芸術大学通信教育部美術科染織コース入学。14年に同学科を卒業し、同大学大学院通信芸術研究科美術・工芸領域染織分野入学。16年同学分野修了。

受賞歴
2016年 《彩あそび》日本染織作家展 衆議院議員議長賞
2017年 《春のおとずれ》日本染織作家展 セイコ着物財団賞
2018年 《初夏のおとずれ》新工芸展 新工芸賞
2018年 《淡海》日本染織作家展 文部科学大臣賞
     《春爛漫》日本染織作家展 大阪高島屋賞
2018年 《朝霧》駒ヶ根シルクミュージアム公募展 名誉館長賞


大迫知信(おおさこ・とものぶ)

京都造形芸術大学文芸表現学科を卒業後、大阪在住のフリーランスライターとなる。国内外で取材を行い、経済誌『Forbes JAPAN』や教育専門誌などで記事を執筆。自身の祖母がつくる料理とエピソードを綴るウェブサイト『おばあめし』を日々更新中(https://obaameshi.com/   )。2018年度より京都造形芸術大学非常勤講師。7月23日発売の月刊誌『SAVVY』9月号より「春夏秋冬おばあめし」を連載中。