アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#52

“Soul”を込めた言葉で伝える書き手に
― 小玉みさき

(2017.03.05公開)

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雑誌、書籍、ウェブなど、メディアを通じて情報を発信する時「言葉」の役割はとても大きい。そしてそこには「書くこと」を仕事とする、ライターの存在が必要不可欠だ。今回取材した小玉みさきさんは、現在編集プロダクションに勤めながら、日々、書いて伝えることに向き合っている。日常的になんとなく目にする言葉には、実はどんな思いがこもっているのだろうか。

———書くことを仕事にしたいと思われたきっかけはなんですか?

大学生だった20歳ぐらいの頃、ふと「言葉を一生の仕事にする!」と思いました。大学の仲間と写真展を開催した時に、わたしは写真に言葉を付けて展示をしました。それまでにも何か伝えたいことがあれば、なんとなく詩にして渡したりすることもあって。展示を見にきた見知らぬ人から友人まで、私の言葉を読んだ人から「元気になった」「心が軽くなった」と言われることが多くあり、卒業後は詩人として活動していくと決めていました。
さらに原点を思い返してみると、小学生の時に詩を書く機会があって、100点をとったことがありました。勉強をしてとった他のどの教科の100点よりもすごく満たされて、うれしかった記憶がありますね。
その後、専業で詩人を目指すことはなかったのですが「言葉に関わる仕事をしたい」という思いから、大阪のデザイン事務所でコピーライターの仕事に就きました。ありがたいことに、最初から物書きとしての社会人生活を始めることができました。

———その後も広告代理店にてライティングとデザイン、フリーライターなどを経て、現在は編集プロダクションに勤めていらっしゃいますね。フリーランスと、会社の一員としてライティングをすることに、何か違いはありますか。

フリーランスは自分の好きな仕事だけを選べることと思われがちですが、大口案件に携わるとそれ以外の仕事が受けられなくなり、私の場合は選ぶ余裕がなく、仕事全体に広がりを感じられなくなっていました。今、会社員となって感じているのは対個人ではなく、対会社だからこそできる仕事がたくさんあるということ。フリーで仕事を受けていた時よりも、新しい分野のものにチャレンジ出来ていることが多く、これまでよりも仕事の幅が広がりました。また、経済的な安定ができたこともあり、仕事をとらなきゃという焦りがなくなり、仕事そのものに専念できるのは1番うれしかったですね。「書くこと、つくることが楽しい」という最初に仕事を始めた時の気持ちを思い出せました。当たり前のように、次の仕事ができることのありがたみはフリーランスを経験したからこそ感じることかもしれません。フリーランスの頃は仕事を受けすぎて、体調を崩してしまうことも多かったので、会社員としてバランスをとりながら好きな仕事ができているのは贅沢だなと感じています。

五箇山へ取材に行った際のオフショット。

五箇山へ取材に行った際のオフショット

———取材する時、書く時、小玉さんが心がけていることはありますか?

書ける文章量って決まっているので、必要不可欠なことだけ取材すれば記事は書けますよね。けれど、取材した人や場所、ものに出会えば、やっぱりそこに込められた思いや温度感を伝えたい。だから、実際、記事には書ききれなくても、全然関係ないこともたくさん聞きます。記事に必要なデータだけを聞くライターもいるし、それはそれで効率的なので否定はしません。けれど、どこか原稿のなかに少しでも、気持ちを込めれば読む人には、原稿以上のものが伝わると思っていて、もしかしたら、無駄なのかもしれないけれど、そんな無駄なことは大事にしていますね。
最初に勤めたデザイン会社の社長がよく「そこにSoul(魂)はあるか」と言っていたのですけど、その言葉が影響しているかもしれません。読者が読み比べたら変わりはないかもしれないけど、そこはこだわっていきたいと思っています。

———書いていて印象的だった記事はなんでしょうか。

どの本も記事もすべて思い入れがあります。ただ、すごくうれしかったのは、自分が携わった本を持ちながら笑顔で観光している人を見た時ですね。いつも読者を想像しながら本づくりをしていますが、実際にその場面を見たことで、誰かを笑顔にできる仕事ができているんだな、と実感しました。
あとは、自分が書いた記事がきっかけになって、取材した方が他から取材を受けたり、その後新しい動きに発展したりするのはうれしいです。その先にあるものを求めるのは、効果を出すことを求められる広告業界を経験したことが影響しているのかもしれません。個人的には、言葉に興味を持つきっかけとなった、絵本に関わる取材(1)ができたことや、大学で学んだ美術に関する仕事ができた「あいちトリエンナーレ」の本や記事(2)に携われたことも素直にうれしかったですね。基本、どの仕事もうれしいのですけどね。
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(上)小玉さんがこれまでに携わってきた媒体の一部。『ことりっぷ』など、女性目線を生かしたガイド本も多い。(下)紙面や原稿の参考になるものをまとめた、オリジナルのアイデアノートと本。

(上)小玉さんがこれまでに携わってきた媒体の一部。『ことりっぷ』など、女性目線を生かしたガイド本も多い。(下)紙面や原稿の参考になるものをまとめた、オリジナルのアイデアノートと本

———肩書きを変えながらもずっと書く仕事をされていますね。

書く以外の、全く違う仕事をしようと思ったことも、したこともあります。そうすれば、自分が好きなものだけを書くことができて、仕事から切り離せるから。でも、この業界のスキルがある分、面白い仕事のオファーもありますし、単純に本をつくることが好きというのもあります。だから、結局、仕事としても、書くことを選んでいるのかも。いろんな仕事に携わっている今、これまでやってきたライティングやデザイン、また大学時代にのほほんと観ていた芸術などが、全部、総合的に役立っている気がします。自分のなかでは、これまでの仕事も、今の仕事も、最終的な目標に繋げるための勉強だと思っていますね。

———最終的な目標とは、何でしょうか?

おばあちゃんになっても、物書きでいることですかね。作品展示をしたり、詩や童話を書いたり。最終的には、哲学童話の本を書きたいと思っています。ライターとして働き出した時に読んだ『だれも死なない』(トーン・テレヘン著)という大人向けの童話がすごく印象的で。ただいろんな動物が出てきて、ちょっとした会話をしているだけの話なのですが、何か起こるわけでもなく、タイトル通り、誰も死ぬことはなく、淡々と、ただ淡々としている話。でも、何度も読みたくなる、読むほどに心に柔らかいとげが残るような、そんな話です。いつか、そんな話が書けるようになりたい。それが目標ですね、きっと。

———やはり書くことでしか成しえない、何かがあるのでしょうか。

自分は文章が上手なわけではありません。好きだからずっと続けているだけで、まだまだ勉強が必要です。でも、まだまだだと思っていながらも、特別に心を込めて書いているので、そこを褒められるのは、何を褒められるよりもうれしいし、泣くほどうれしかったりしますね。
あと、自分で言葉を動かして、何か物語化することがわたしのなかに、どこか当たり前のようにあるので、そこがいつか生かせればいいなと思います。わたし自身も、他のひとが書いた作品を読んで救われたような経験があるし、同じように悲しんだり苦しんだりしているひとに、言葉を通じてちょっと気持ちが軽くなるような、また何かを与えることができたらな、と思います。

(1)
四日市 ひげのおっさん営む書店に大物作家が訪れる理由

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160309-00000002-wordleaf-soci

(2)
あいちトリエンナーレ2016公式サイト

https://aichitriennale.jp/
※同サイト内で小玉さんが執筆したページ

「アート」の中の「音」とは?「アートに音を視る」レポートhttp://aichitriennale.jp/2016/aitorinavi/2016/09/970_post/

儚さや繊細さを感じる真っ白な壁画の世界アーティストトーク:佐々木愛
http://aichitriennale.jp/2016/aitorinavi/2016/09/1325_post/

取材・文 浪花朱音
2017.02.10 オンライン通話にて取材

プロフィール写真

小玉みさき(こだま・みさき)

1977年生まれ。2000年京都造形芸術大学芸術学部芸術学科卒業。
デザイン事務所でコピーライター、広告代理店でデザイン、出版社で編集を経験した後、フリーランスとして活動。その後、ライター業と広告代理店の仕事を兼務する中、ワークライフバランスについて考え、現在の編集プロダクションに在籍。
情報誌の編集から広告の企画、著名人のインタビュー、各種ライティング業に携わる。


浪花朱音(なにわ・あかね)

1992年鳥取県生まれ。京都造形芸術大学を卒業後、京都の編集プロダクションにて、書籍の編集・執筆に携わる。退職後はフリーランスとして仕事をする傍ら、京都岡崎 蔦屋書店にてブックコンシェルジュも担当。現在はポーランドに住居を移し、ライティングを中心に活動中。