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アネモメトリ -風の手帖-

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#97

放生津の曳山まつり
― 富山県射水市

放生津(ほうじょうづ)八幡宮の例大祭は、「曳山(ひきやま)まつり」とも呼ばれ、毎年大変なにぎわいを見せます。9月30日の霊迎式(たまむかえしき)から始まり、10月1日には13本の曳山が神輿に供奉し、昼は「花山」、夜は「提灯山」の姿で町を練りまわります。2日は放生会の儀式、築山祭りが行われます。3日に報賽祭が行われ、一連の祭礼が終わります。今回はその中の曳山について紹介します。
曳山の始まりは約360年前と言われています。13の町にそれぞれある曳山のうち、古新町のものがいちばん古く、慶安3年(1650)の創設との記録が残っています。毎年8月に各町内の代表がくじを引き、曳山の順番が決まります。一番山である古新町だけは「くじのけ」で、先頭であることが決まっています。曳山の山体は放生津の宮大工連が中心になって作り、地元の飾師などにより彫刻・塗箔・彫金などが施されました。富山県内には漆や金工、彫刻の高い技術を持つ地域があり、後にそれらの技巧をも取り入れ、完工されたようです。曳山は町の誇りであり、各町内が競い合いながらつくり上げたもので、それぞれに特徴があります。
町内により多少の差はありますが、曳山は高さが約8m、重量が約3.5t、幅約7mもあります。電線の下を通るときには、引っかからないように、物干し竿で電線を持ち上げます。曳山が狭い町角を曲がるときは本当に迫力満点で、見どころのひとつでもあります。曳山の方向を指示するのは、その町の責任者です。曳子さんたちはその指示に従って方向を調整するのですが、指示の出し方もこの地方ならではです。新湊地区は、東に立山連峰、西に二上山を望み、北には海、南には田んぼがあるところです。「立山」と言われれば東に曳き、「二上」と言われれば西に曳き、「浜」ならば北、「田んぼ」ならば南に曳きます。
もともと気性の荒い漁師さんが多い地域、その昔には激しい喧嘩もしたのだとか。そんな迫力の曳山ですが、曳山の幔幕の中から聞こえる意外にも典雅なお囃子にきっと驚かされることでしょう。是非来てみて下さい。

(加藤明子)

町内ごとに前人形や王様、山車、曳子さんの衣装が違います。写真は荒屋町の曳山

町内ごとに前人形や王様、山車、曳子さんの衣装が違います。写真は荒屋町の曳山

「金持ち山」とも呼ばれる新町の曳山の車輪。新町の曳山は山体の彫刻や幔幕の刺繍も豪華です

「金持ち山」とも呼ばれる新町の曳山の車輪。新町の曳山は山体の彫刻や幔幕の刺繍も豪華です

夜の提灯山。中町の曳山は上段の赤い提灯部分がクルクルと回転します

夜の提灯山。中町の曳山は上段の赤い提灯部分がクルクルと回転します