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アネモメトリ -風の手帖-

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#198

祇園饅頭―博多の夏の縁起菓子―
― 福岡県福岡市

祇園饅頭は、博多祇園山笠期間中の2週間のみ販売される縁起菓子です。博多祇園山笠は、櫛田神社に祀られる祇園宮に奉納される夏の神事で、770年以上も続いています。期間中、祇園饅頭を神棚に供えて祭りの無事と厄除けを願います。
櫛田神社との結びつきが強く、ご神紋を付することを許された福岡の老舗菓子メーカー3社が、祇園饅頭を製造販売しています。俵型の饅頭で、小豆を使っているところが共通点です。では、各社の祇園饅頭について見てみましょう。

左から、鈴懸、松屋、石村萬盛堂の祇園饅頭

左から、鈴懸、松屋、石村萬盛堂の祇園饅頭

鈴懸
白くて上品な包みの中に、薯蕷(じょうよ)饅頭が入っています。山芋を使っているので、しっとりとした食感です。薄紫色の餡は、甘さ控えめです。形は小ぶりで、全体的に上品な印象です。

元祖鶏卵素麺 松屋
包み紙に、櫛田神社の神紋の木瓜と黒田藩家紋の藤巴が配されています。箱入りで、高級感が漂っています。饅頭の特徴は、黒糖を使っているところです。黒糖は味に独特の癖があるため、砂糖より扱いが難しいそうです。

石村萬盛堂
包み紙に付けた七夕の短冊飾りが、夏を演出しています。こちらの饅頭には、博多に唯一残る老舗造り酒屋「石倉酒造」の清酒と酒粕が使われています。香りを重視しているそうで、饅頭を手で割ると、ほんのり清酒の香りがする酒饅頭です。

左から、鈴懸、石村萬盛堂の饅頭。各社、餡に個性が出ます

左から、鈴懸、石村萬盛堂の饅頭。各社、餡に個性が出ます

鈴懸の祇園饅頭には飾り山の下絵の絵はがきがついてきました

鈴懸の祇園饅頭には飾り山の下絵の絵はがきがついてきました

202021年と、新型コロナウイルスの影響で山笠は中止されました。中止は戦後初めてのことです。それでも、祇園饅頭は販売されました。特に2020年は、「厄除け」というテーマで各社が工夫を凝らした商品が店頭に並びました。松屋は、アマビエのイラスト付きの紙を添え、石村萬盛堂は、博多人形師が描いた飾り山の下絵を包み紙に使いました。鈴懸の祇園饅頭には、下絵の絵はがきが添えられました。各店舗とも反響が大きく、祇園饅頭を広く知ってもらう機会になったようです。
ピンチをチャンスに変えた祇園饅頭、今年の夏は神棚に飾って祭りの無事を願うことができそうです。

(今長まゆみ)