山形との県境にほど近い村上市の山北(さんぽく)地区では、今もなお「灰の文化」が息づいています。
その昔、山から切り出された木々とその灰はさまざまな生業を生み、暮らしを豊かにしてきました。かつてどの家にもあった囲炉裏端では、家族や旅人との団欒がありました。民俗学で「旅」の語源は「他火(たび)」ともいわれています(1)。他の地に灯る人の火にあたらせてもらい、炉辺の語り合いから知恵やヒントをもらって再び故郷に帰っていく……。今回は、そんな灰の文化から生み出された「食」をご紹介します。
山北に伝わる郷土料理「あく笹巻」は、端午の節句にかかせない黄金色のちまきです。時期からは少し外れますが、今回、地元の方々のご厚意で手作り体験をすることができました。
その仕込みは前日から始まります。もち米を2時間ほど水につけた後、地元で「あくみず」と呼ばれている灰汁に浸して一晩置きます。「あくみず」は透き通った淡黄色をしていて、濁った灰色を想像していた私には驚きでした。ナラの木を燃やしてできた灰から作られるその色は、「煮る・濾す・掬う」といった手間のかかる作業から生まれます。
手作り体験の当日。笊にあげられたもち米をスプーン一杯分とり、3枚の笹を使いながらクルクルと三角形に巻いて、最後に「いぐさ」できっちりと縛ります。それを「あくみず」入りのお湯で2時間ほど茹でれば出来上がりです。多くの郷土料理がそうであるように、この「あく笹巻」もとても手間のかかる料理ですが、保存食としての知恵がたっぷりと詰まっています。
手を動かしながらおしゃべりし、一服しながらおしゃべりし、食卓を囲みながらあれやこれやと繰り出される会話を聞いていると、ふと「話すことは手放すこと」という昔読んだ本の言葉が浮かんできました。
それぞれが抱えているものを、ちょっとだけ荷下ろしして共有する場。
そして最後には、笑い飛ばして日常を受け入れていく逞しさ。
ここ山北には、囲炉裏端が今も健在です。
(長谷川千種)
参考
(1)
さんぽく生業の里
http://www.iwafune.ne.jp/~sanpokusho/kaiin/nariwai/nariwainosato.html
さんぽくまちづくり通信 第4号
https://www.city.murakami.lg.jp/uploaded/attachment/3553.pdf
ギャラリー&カフェ えん
新潟県村上市府屋40番地3