アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#98
2021.07

未来をまなざすデザイン

3 それぞれの受け継ぎかた 長崎・雲仙市
5)農とデザインを結ぶ 「種を蒔くデザイン展」1
タネト 奥津爾さん2

2020年末、奥津さんはタネトと刈水庵を会場に、食とデザインの展示を手がけることを決めた。
もとはといえば、2021年3月に2つのイベントが予定されていた。奥津さんが食を、城谷さんがデザインで、とそれぞれに雲仙市が依頼したのだった。予算枠もまったく別で、奥津さんは城谷さんがイベントを手がけることを知らなかったという。
しかし城谷さんが亡くなり、デザインの企画はやらないと言われて、奥津さんは手をあげる。

———やらなくなるって悔しいから、僕くっつけてできますよ、と。まったくノーアイデアでしたが。結局城谷さんと何も一緒にできなかった、というのもあったから。いつかやるんだろうなと思ってましたが、うまくかみ合わなくて。いつでもできるし、という感じだったと思うんです。

それが「種を蒔くデザイン展」である。
奥津さんは食や料理を扱うなかで、デザインと無関係だったわけではもちろんない。大阪で行われてきたデザインする状況をデザインするイベント「DESIGNEAST」にゲストとして参加したこともある。ただ、デザイン全般については、小浜に移住する前はいいイメージを抱いていなかった。

———デザインって大量消費、大量廃棄のサイクルと僕のなかでは結びついてるから、デザインという言葉にあんまりいいイメージがないんですよ。
うがったいい方をすれば、偽物を本物のように見せる技術でもあるというか。特に食の世界ではすごくリアルなんですよね。工業製品みたいにつくっているものでも、デザインの力でいくらでもよく見せられる。ここ10年ぐらいで、食の世界、特にオーガニックに近い世界で、マーケティングの技術がめちゃくちゃ上がっていて。洗練された写真とデザインで売り出す、みたいなことがすごく増えていますよね。
そういうところに、城谷さんと交流させてもらって、本質しか見てないデザイナーっているんだ、って。自分の思う通りに仕事して、しかも結果も出して。衝撃を受けました。
小浜に来た初期は、ほぼ刈水庵で仕事をしていたんです。そうすると、(当時の)店長の古庄くんがデザインの話をしてくれたりするんですよね。そのなかで、デザインは本来労働者や働く人に向いていて、よりいいものをたくさんの人に届ける力がある、と知るんです。モダンデザインの良さですよね。僕はクラフト寄りの人間なので、すごく新鮮だった。
城谷さんのプロダクトは「CAST」や「RIM」とか、あれだけのクオリティを出しているじゃないですか。クラフトだとどうしても高くなっちゃうけれど、RIMのようなプロダクトであれば価格も安くなる。知らず知らずのうちに、教育されたっていうのがありますね。

デザインの本質にふれる時間と空間。いつしか、奥津さんにもデザインの種のようなものが宿っていたのかもしれない。
「種を蒔くデザイン展」でやりたいことは明確だった。1つには第一次産業とデザイン。第一次産業に対してデザインは何ができるか。2つ目は環境問題とデザイン。環境問題に対してデザイナーはどう考えているのか。最後はローカル、地域性。その土地の風土をデザインから考えること。
2021年1月に取材した時点で、具体的に決めていたのはプラスチックフリーの野菜売り場と城谷耕生の展示であった。

———僕らはタネトでデザインの力を借りてプラスチックフリーの野菜の売り場を実現する。日本でそれをやるってめちゃくちゃ難しいことなんですよ。1日のイベントとかならできるんですけど、恒常的にプラフリーの売り場やっているところって多分ないと思います。それに、僕らみたいな在来種を扱う直売所でプラフリーをやる意義って大きいじゃないですか。畑から持ってきてそのまま並べられるわけですよ。土から売り場に持ってきて買えるという流れができたら画期的なことで。農家さんにとっても洗ったり袋づめしたりはすごいストレスだから。
それを僕個人の力技じゃなくて、デザインを通してプレゼンする。それも城谷チルドレンの山﨑くんや古庄くんのグラフィックで。それがひとつの柱で。
もうひとつは、城谷さんのデザインを刈水庵で見せる。長崎県美術館の城谷耕生展はとても素晴らしかった。こんなに身近にいるのに知らなかったことたくさんあって。その流れもあって、STUDIO SHIROTANIが刈水庵で「城谷耕生展」をやるんです。県美でやっていたことを、城谷さんが拠点とした刈水庵でやってもらう。そこに行けば城谷さんの仕事がアーカイブされている。そうやって、デザインと農を結びつけたいと考えました。

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店内の一角では、奥津典子さん、長女の愛子さんが料理を供する。この日のランチは野菜たっぷりの豚汁