2)分断への違和感から生まれた市民活動
仙台の市街地で20年営業を続けられている「book cafe 火星の庭」(以下、火星の庭)は、カフェを併設した古書店。4卓ほどあるカフェスペースではカレーなどの軽食も提供、古書店の仕入れや値付けも含め、ここ10年ほどはアルバイトスタッフも雇わずに基本的に前野久美子さん、健一さんご夫婦で切り盛りしている。緊急非常事態宣言下では古書店という業種ゆえ、休業要請を受け、補償金を受給した上でしばらく店を閉めていたという。しかし、それは決して安寧な日々ではなかった。
———地方都市って、業種というよりは規模だったり、スタンスだったりを共有できるお店同士の繋がりが強いんです。古本屋だから、組合に参加しているから連携できるかというとそうとは言えなくって、例えばレコード屋さんや飲食店のような他業種でも、規模や感覚が近しいお店の方が仲良かったりする。
でも、コロナ禍における休業要請によって、ある種の分断が生まれてしまったんです。仲の良い店だけど、休業要請が出ないところもある。つまり補償がない状態なのにお客さんはなかなか来ないし、身の安全のためにも休業せざるを得ない。自分は安心して休めたとしても、彼らはそうではないという分断がすごく気持ち悪くって。
コミュニティ内の分断に違和感を抱いた前野さんは行動に出る。休業要請が出なかった個人店やフリーランスの方々の声を集め、県庁と県議会に対し、家賃補助をはじめとする支援拡充を求める、「みやぎコロナ互助会」を立ち上げたのだ。
———最初はすぐにはアクションを起こせなくて。そんななか、心配してくださっている常連さんに「家賃が一番ネックなんだよね」って言ったら、そのひとはたまたま日頃から市民活動をされている方で、知り合いの宮城県議会議員に連絡してくださったんです。その県議のひとに「家賃が固定費で一番困っているから家賃の補助を議会で通してほしい」と伝えたところ「前野さんが直接要望書を提出したほうがいいですよ」って。そのときにはもう3週間の休業が決まっていたので、時間はあったからやってみようかなと。
要望書を作っていく過程をTwitterなんかで発信していたら、地元の新聞社の方が見てくださっていて、河北新報の朝刊に大きく載ったんです。そしたら宮城県中から連絡があって、最終的には200人くらいが参加することになりました。
動機は仲間の店との分断に対する違和感から、行動のきっかけは常連とのコミュニケーションから。ごく限定された地域や個人の問題が社会規模へと広がっていくのは火星の庭という場があってこそのこと。個人経営の古書店という本来私的な空間が、公的な役割を担うこともあるのだ。