2)手づくりも既製服も同じように着る
チャイナドレス風ワンピースに始まって、自分のためにつくった服は、この10年で80着以上。今ではコートなどのアウターや、ファーやレザーなどの素材にもチャレンジするようになった。行司さんのつくりかたは、布から想像をふくらませる時間を楽しんで、一気に仕上げるというものだ。
——服をつくるようになってから2、3年は、1ヵ月に1回ほど、休みの土日を使って自分のためにつくるのを続けていて。映画行ったり買い物行ったりするのと同じように、ほんとに趣味のひとつという感じでしたね。
わたしの場合、まず布ありきなんです。というのもデザイナーのように、まずデザインありきでそれに合わせて布をつくったり、手に入れられたりするわけではないから。スーパーで、「あ、今日はキャベツ安いな、ロールキャベツつくろうかなと」思うのと同じ感じです。気に入った布を服にしようと思いますよね。そしたら、だいたい1週間かけるんです。まず、通勤途中に「どうしようかな」ってぼうっと考えるんですよ。だんだんかたちが固まってきて、金曜ごろには、こういうふうに縫って、と頭のなかで段取りをシミュレーションします。で、土日のどちらかが空いたときに裁断して、ミシンで縫って、ゴールへ向かってGOという感じです。
だから考えてるときも楽しいし、つくってるときも楽しいし、できあがって着るのも楽しいし、それぞれが楽しいんですね。布を見つけたときも楽しいし、見つけたらうれしくなって、かたちも思い浮かんで楽しいし。その繰り返しのような気がします。
行司さんにとって、服づくりの過程はすべて楽しいことばかりで、さまざまな工夫も重ねていった。
ファッションデザイナーのように、服を解体してカッティングや縫い方などを研究するようなもったいないことはしないけれど、上質の素材で仕立てのいい服を買って、着心地や素材感などを確かめるようになった。また、ロンドンのサヴィル・ロウに行ったり、アントワープで美術館に行ったりと、できるだけ本場の本物を見るようにして、行司さんなりに素材や技術を勉強している。
また、好きな布は端切れであったり、一期一会のものも多くて、一着仕上げるには生地が足りないという事態もよく起こる。その場合は他の布を継ぎ足したり、リボンを使って接続したりする。「ごまかしです」と行司さんは言うけれど、それがアクセントとなり個性にもつながる。
現在、行司さんのワードローブは、自身の手づくりと既製服が半々くらいだという。
——自分でつくれるものはつくって、つくれないプロの仕事のものを買うようになりました。カッティングやかたち、縫製など、これは絶対無理と思うものですね。最近買ったのは、革のブラウスやドレープがきいたパンツ。つくるのが難しい細いパンツや、ぴしっと縫う必要のあるトレンチコートなども買っていますね。これも料理とも似ていて、家でつくれる肉じゃがみたいなものは滅多に買わないと思うんですけど、料亭の懐石とかパティシエのケーキはつくれないから買ったり、食べに行くじゃないですか。使い分けてると思います。プロの技術も少しずつですけど、よくわかってきました。
つくった服はいつ着るかというと、すべて仕事着として活用している。ひとに会うことの多い仕事だから、その相手や状況を考えるのだという。
——会うひと次第で、あとはその日の気分で選びます。(服装で)「第一印象をかましてやる!」と思ってますね(笑)。やっぱり既製服のほうがいいひとの場合は既製服を着て行ったりします。といっても、わたしはスーツは1着も持ってないですし、喪服も持ってません。単純に似合わないからです。どれもふだん着なんですよね。
フォーマルな格好として、スーツは一般的に無難ではあるが、似合わなければ無理して着ない。さらには、既製服がフォーマル、つくった服がカジュアルということでもない。どれも自分が好きで、似合うと思う服のヴァリエーションという感じだろうか。