6)公共は「わたしたち」がつくりだす
森下エリアと浜町エリアは、興味深い変わりかたをしている。喫茶店とランドリー、コンビニとレコードなど、意外に思える取り合わせで営まれる場が、本当に偶然、いくつかできたことで、まちが面となり、良い循環が生まれているのだ。
喫茶ランドリーの大西さんの言うように、ひとは自発性をもっていて、「みんなやってみたい気持ちがあって、ぽんと背中を押してあげたらワークショップでもお店でもやれる」のだから、誰かの「楽しんでいるようす」はひとの能動性を引き出す力をもっている。
そこにあるのはとてもシンプルな、「面白いから」「楽しいから」「好きだから」というきわめて個人的な動機。ひとが楽しんでいるのを見ているうちに、自分も肩の力を抜いて、自然体で楽しみ、そしてやってみたくなる。その個人個人の楽しみがいくつも重なり合って、魅力的な場が生まれ、人間らしい楽しいまちとなっていく。田中さんのいう「マイパブリック」には、そのようなこともふくまれるのではないだろうか。
「公共」は上からの押しつけや、「何かのため」という義務感から成り立つわけではない。また、箱やコミュニティだけあっても公共にはならない。そこに必要なのは、田中さんが目指す「最初の踊り子」のような存在だ。つまりは、「やってみたら楽しいよ」と最初にやってみせる誰か。次のひとがそれを見て「あ、私もやれるかも」とどんどん舞台に上がり、楽しさの輪が広がる。すると、そこにもっとひとが集まるようになり、つながりが生まれ、そこから何か新しい動きが起こる。
そんなふうに、わたしたち市民がつくりだす。それが、これからの時代の「公共」のありかたかもしれない。
リズムアンドベタープレス
https://randbpress.com
喫茶ランドリー
https://kissalaundry.com
取材・文:太田明日香
兵庫県淡路島出身。編集者、ライター。著書に『愛と家事』、企画・編集を担当した本に『よい移民』(ともに創元社)。『女と仕事』(タバブックス)、『彼岸の図書館』(夕書房)に寄稿。『朝日新聞』読書サイト「好書好日」、『仕事文脈』(タバブックス)などで執筆。https://editota.com/
写真:矢島慎一
1975年埼玉県秩父市生まれ。山岳専門誌やアウトドア誌で撮影を担当しているカメラマン。仲間とともに山や沢、海で遊び、その様子を記録している。
編集:村松美賀子
編集者、ライター。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎ヴィジュアル文庫)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。