アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#83
2020.04

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

3 点から面へ、回遊できるまちのつくられかた 東京・森下、浜町

1)趣味と実益、整理も兼ねた「一石三鳥」
レコードコンビニYSHOP上総屋・進藤康隆さん1

レコードコンビニの正式名は「レコードコンビニYSHOP上総屋」。一見どこにでもあるコンビニだが、ウィンドウにはレコードジャケットが何枚も飾ってある。話には聞いていたが、実際にその光景を見てみるとインパクトがある。店内の品ぞろえはふつうのコンビニと変わらないのに、お酒やカップラーメンの棚に隣り合わせて、レコードグッズや中古レコードがいい具合になじんで売られている。なんとも不思議な空間だ。
店主の進藤康隆さんは、
バンドをやっていたりレコードを収集するなど、音楽が生活の一部というひとだ。1999年に実家の酒屋をコンビニにすることになったタイミングで、店を手がけるようになって現在に至る。コンビニに音楽の要素が加わったのは、店で流す音楽がきっかけだった

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進藤康隆さん。倉庫にしていた地下の空間も改装し、録音やライブ、DJなどができるスペースに

———最初は有線を入れていたんだけど、ずっと同じような音が流れているから有線のスピーカーを切って、ターンテーブルを持ってきたんです。レコードはずっと集めてたんで、そうなったら店で聴いてもいいんじゃないのと思って。それが始まりっちゃ始まりかもしれないですね。

店でレコードをかけていると、音楽関係のお客から「ピンク・フロイド流してなかった?」などとレコードについて話しかけられるようになった。確かに、コンビニでレコードが流れていたら、音楽関係者でなくても、反応したくなる。

———自分では全く意識していないです。自分はいつもレコードで音楽を聴いていたわけなんで、それを店でもBGM的に聴いたらいいんじゃないかな、みたいな。その感じでずっとやって今に流れてきていますね。

進藤さんはそう言うが、レコードをコンビニでかけるという発想が画期的だ。さらに、店のなかでは音楽の比重が増えていく。 

———最初は店内のレジの後ろにジャケットを飾っていたんですよ。元々進物のお菓子とかギフト的なもののコーナーだったけど、売れなくなっちゃって。だけど台がちゃんとした造りになっているからもったいないなと思ってレコードを飾ったんです。そしたらお客さんに「売ってくれない?」といわれるようになって。

そうして進藤さんは持っている膨大なレコードの一部を売り始めた。ふつうのレコード店よりは低めの価格設定とはいえ商売になるし、整理もできる。まさに「一石三鳥」だった。
そのうちレコードを売っているコンビニがあるという噂を聞きつけて、遠くからやってくるひとも出てきた。なかには、深夜24時に訪れて、これから回すレコードを仕入れ、クラブに向かうDJもいるという。
レコードコンビニの営業は朝7時から2430分までだが、深夜はコンビニの利用客に加え、音楽好きの御用達的な面も出てくるようになった。一方で、さまざまな客層に気軽に立ち寄ってもらうための工夫も試みる。店内にカウンターをしつらえ、イートインスペースを設け、コーヒーを飲めるようにした。2011年のことである。

———イートインは当時、他のコンビニにはなかったんですよね。ミニストップはやっていましたけど。なので、ちょっとやってみようかなと。コーヒーとかは陶器のカップで出したりして。ちょっとしたカフェなんだけど、夜はお酒も飲めるようにしたらいいかなっていう感じ。
そのときに、通りに面しているので飲食しているのが外に見えちゃうじゃないですか。なにかいい方法ないかと考えて、レコードのジャケットを立てかけてみたら、ちょうどいい隠れ具合になって。何を食べているかはわからない。絶妙な感じで。

レコードジャケットを立てかけるために、アクリル板をつくってもらい、本格的に常時10枚くらい飾るようになった。来日するミュージシャンに合わせ、タイムリーに差し替えるようにしている。すると、近所のおじいちゃんから若者まで、世代も性別も、音楽好きかどうかも関係なく通りがかりのひとが反応してくれるようになった。
進藤さんが好きなことをやってきた店は、音楽から間口が広がっていったのである。

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コンビニの景色にレコードが加わっている。最初はびっくりするが、すぐに楽しい気分に