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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#78
2019.11

場をつくる × クラウドファンディング

京都・THEATRE E9 KYOTO 後編
5)「ハコ」を超え、芸術の「価値」を社会に問い続ける
あごうさとしさん(劇作家、アーツシード京都代表理事)2

あごう アートに関わる者の意識が変わらないと、100年後も同じ愚痴を言っていると思います。構造が変わらなかったらなにも変わらないことは明確じゃないですか。
私たちが望んでいるのは、想像力みたいなものですよね。「民間劇場の公共性」って言葉はすごく固いのですが、「そもそもどうやって劇場が成り立っているんだろう?」とちょっと考えればわかる話でそんなに難しくないんですよ。それは、お客さんや市民のことを考えることでもあるし、社会とつながっていく意識を持つことでもある。表現や舞台芸術にはいくつもの問題がありますが、社会に向き合う以外に解決の方法がないんです。

そもそも、あごうや蔭山がクラウドファンディングで問いかけた「京都に小劇場がなくなってもいいのか?」は、私たちひとり一人に公共、つまり京都というまち、社会全体の在り様を想像させる問いであった。だが、建物が出来上がり、開館してしまえば、簡単に「あるのが当たり前」になってしまう。

あごう 公共を考えることは、その作品のクオリティにも関わってくることだと思います。その作品をつくっているひとのリアリティがどこにあるのか。この社会、世の中で作品を通してどんな価値を立ち上げるのかをどれほど机上の空論ではなく、リアリティを持って考えているのか。表現、アートに関わる者は、作品を社会に出す根拠が問われているのだと思います。

取材を終えて改めて思う。あごうや蔭山、アーツシード京都のメンバーがつくろうとしていたのは、単なる舞台のある建物ではなく、劇場の内と外をつなげ、芸術と社会の関係、芸術が社会にある「価値」を問い続ける活動そのものだったのだ。

取材後、E9 の活動体としての姿が如実に現れた出来事があった。10月7日、E9で「緊急シンポジウム:京都市による京都駅東南部エリア『都市計画見直し素案』を考える」が開催されたのだ。この案は文化芸術を基軸としたまちづくりを目的に、第一種住居地域だったエリアを近隣商業地区+特別用途地区へと変更し、用途制限を大幅に緩和するもので、京都市が9月初旬に突然発表したのだった。THEATRE E9 KYOTO支配人の蔭山陽太はこう話す。

蔭山陽太さん

蔭山陽太さん

この計画が実施されれば、大きな資本が入りやすくなり、地価や家賃の急激な高騰や地上げを招くことによって、京都市が2017年に発表した「京都駅東南部エリア活性化方針」で掲げる「若者を中心とした移住・定住を促進し、人口減少や高齢化の進展に歯止めを掛けるとともに、将来のまちづくりの担い手を確保することが必要である」という課題解決に逆行する結果を招く可能性があります。また、同方針の第一の柱として位置付けられている「日本の文化芸術を牽引し、世界の人々を魅了する創造環境の整備」については、その実現のための具体策やロードマップは示されておらず、一律的な用途制限の大幅緩和は方針の根幹を危うくしてしまうことにもなりかねません。

住民が培ってきた東九条の生活とコミュニティがこわされる可能性もある。見直し案の背景に、京都市立芸術大学の移転とE9の開館もあげられていた。2年以上かけて東九条の住民との関係をつくり、資金を調達してきたアーツシード京都のメンバーにとっては不本意な取り上げられ方であり、シンポジウムの開催となった。
舞台では、アートに関わる者、東九条の住民、京都市立芸術大学の教員、文化政策の研究者らが集い、京都市の見直し案への懸念とより前向きに地域とアートの健やかな関係づくりへの意見が出された。注目すべきは客席側で、わずか一週間ほどの告知期間であったにも関わらず、およそ100名と満席だった。アートに携わる者と地域住民が混じりあい、熱心に聞き入っていた。THEATRE E9 KYOTOという「場」からの呼びかけが、人と人をつなげ、新しい「価値」へと結実しつつあると感じた。
E9は、これからも厳しい運営状況が続く。東九条の状況も楽観できるものではない。しかし、このまちにこの小劇場があることが、確かな希望として私たちにもたらされたのではないだろうか。その希望を育てるのは私たちである。

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シンポジウムの登壇者は井上明彦(美術家・京都市立芸術大学教授)、佐々木雅幸(大阪市立大学名誉教授)、佐藤知久(京都市立芸術大学教授)、東岡由希子(弁護士・京都弁護士会)、松尾惠(ヴォイスギャラリー/超京都代表)、森山直人(京都造形芸術大学教授)、山本麻紀子(アーティスト)、ヤンソル(Books × Coffee Sol. 店主)、淀野実 (世界人権問題研究センター常務理事)、蔭山陽太(弊館支配人・理事)、あごうさとし(弊館芸術監督・代表理事)*敬称略 / 写真:井上嘉和

 THEATRE E9 KYOTO
https://askyoto.or.jp/e9

アーツシード京都
https://askyoto.or.jp

京都信用金庫
https://www.kyoto-shinkin.co.jp/

取材・文:山下里加(やました・りか)
京都造形芸術大学アートプロデュース学科教授。アートジャーナリスト。大阪アーツカウンシル専門委員(2013年6月〜2018年3月)、高槻市・豊中市・奈良市などの文化振興会議委員など地方自治体における文化政策に関わる。『地域創造』(一般財団法人地域創造)にてアートとまちづくりの関係を取材・執筆。『ブリコラージュ・アート・ナウ 日常の冒険者たち』(国立民族学博物館、2005年)、『山下さんちのアーカイブを持って帰る』展(ARTZONE、2014年)などの展覧会企画に参加。

写真:成田 舞(なりた・まい)
1984年生まれ、京都市在住。写真家、1児の母。暮らしの中で起こるできごとをもとに、現代の民話が編まれたらどうなるのかをテーマに写真と文章を組み合わせた展示や朗読、スライドショーなどを発表。2009年 littlemoreBCCKS写真集公募展にて大賞・審査員賞受賞(川内倫子氏選)2011年写真集「ヨウルのラップ」(リトルモア)を出版。

編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。