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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#78
2019.11

場をつくる × クラウドファンディング

後編 京都・THEATRE E9 KYOTO
4)表現者とともに「公共」を考える劇場
あごうさとしさん(劇作家、アーツシード京都代表理事)1

京都信用金庫への取材を一例に、企業はE9への資金援助を通して自身がこのまちにある意味を再確認していることをみてきた。同時に、E9の関係者にとっても企業の理念や経営者の思いに触れる機会となった。「利益追求を目的とする企業」「芸術性や先進性を重視する小劇場」といった先入観がはずれたとき、互いに共有できる「価値」に気づいたのだ。
では、表現者にむけてE9はどんな「価値」を提示し、交換しあう場になろうとしているのだろうか。

あごうさとしさん

あごうさとしさん

あごう 「つくる劇場」を目指していますから、E9という創造環境でどれだけのクオリティがある舞台芸術を上演していけるかを考えています。その1つとして、アソシエイトアーティストの制度をはじめています。

アソシエイトアーティストとは、劇場がアーティストと契約を結び、創造活動をサポート、新作を上演する機会を提供する制度だ。あごうはアトリエ劇研でも取り入れ、きたまり、木ノ下裕一、山口茜らをアソシエイトアーティストとして推薦していた。E9の場合、選ばれたアーティストは、毎年1公演をE9で上演できる。その際、公演当日だけではなく、studio seedbox(E9近くにあるビル内にあるブラックボックス型のスペース)を3週間、E9を1週間、稽古や公演に無料で活用でき、公演の質を上げていくことができる。

あごう まずは、年に1組のアーティストを選び、3年間の契約を結ぶ予定です。3年目以降は常時、3組がアソシエイトアーティストとしてE9に関わっていることになります。選考は、書類と面接です。活動歴、代表作の映像に加えて、「3年間の作品創造を通じて考えたいことは何か?」をテーマにエッセイを書いていただきます。若手であっても、ベテランでも同じです。つまり、いま、僕らが直面している課題に共鳴してくれるアーティストを求めているんです。哲学の部分で通じ合うひとたちと、「E9でどんな作品をつくっていくのか」を考えたい。

E9のアソシエイトアーティストの募集要項には、次のような文章が掲載されている。
「2020年代における舞台芸術作品とは何か、私たちが求める創造環境とは何か? とりわけ民間劇場における公共性について共に考えていきたいと思います。」
民間の小劇場が、アーティストに公共性を問いかける。E9は何を起こそうとしているのだろうか。

あごう めんどうなことを要求していると思います。ですが、芸術の創造環境や舞台・演劇を取り巻く環境は、本質的には100年前とあまり変わっていないんじゃないか。ベーシックなところを考えていこうとしているひとは少ないんじゃないか。同じような不満を同じように繰り返していくだけで、自分たちで変えていく動きを、表現に関わる者自身がつくっていけてなかったのかという思いがあります。めんどうですからね、根本を考えることは。だからこそ、アソシエイトアーティストの公募もふくめて、「公共」を考えていく劇場という態度と方向性を示すことが大切だと思っています。というより、そういうひととでないと僕らは共通言語を持てないんです。

今夏、芸術文化に関わる者にとって大きな衝撃となった出来事があった。「あいちトリエンナーレ」において、一部の“市民”からの反対で「表現の不自由」展が中止に追い込まれたのだ。文化庁からの補助金も不交付とされた。芸術や創造に対する視線はより厳しくなってきている。しかし、裏を返すとこの状況を引き寄せたのは、芸術文化に関わる者だったのではないか。筆者も自戒をこめて言う。私たちは「公共」を考えてきたのか。「公共」の一員として、隣にいる“市民”に語りかけてきたのだろうか。