2)クオリティは高く、体制やしくみを工夫する
パルコ ミツカルストア・平松有吾(2)
東京にいる平松さんの目には、地方のつくり手はどのように映っているのだろうか。
——たとえば、今年の3月に“上京物語”という企画を「ミツカルストア」で展開して、関西のブランドを集めました。そのなかで反応のよかったブランド、「AWA」「FUTATSUKUKURI」「ぺーどろりーの」などはミツカルで引き続き展開しています。みなさん関西拠点で、直営店を持っているわけではなく、ネットや東京のショップに卸しているけど、熱狂的なファンを抱えている。正直、東京で新しいブランドを探すよりも、関西に行ったほうが見つかるんじゃないかと思うくらいです。
かつて東京でブランドをする利点としては、メディアの力があったんですね。昔なら雑誌に取りあげられるには、東京でやっていないと難しかった。でも今は雑誌よりSNSの影響力が強いので、地方のつくり手でもツイッターやタンブラーをうまく使えば広がっていくことがよくあります。「FUTATSUKUKURI」かわいいよ、っていうのが関西のなかでワッと広がって、拠点になっているお店に買いにいくんですね。みんなツイッターでいつ入荷というのを知っているので、10点20点が1日でなくなってしまうんです。
東京のファッションデザイナーたちもけっしてビジネスが順風満帆な状況ではない。1980〜90年代は、川久保玲や山本耀司のように全国に店舗を展開したり、パリコレクションに参加することが目標だっただろうが、今の若手デザイナーにはかなり非現実的だろう。ブランドを立ちあげるのはいいけれど、どういう風に成長していくかを考えるのが難しい時代になっている。
——今の若手デザイナーがなりたい目標は「アンリアレイジ」でしょうか。ビジネスとしてこれからの部分もあるかと思いますが、やっぱり本ルートというか、ファッションで直球勝負という道を選ぶひとの憧れは「アンリアレイジ」「ミントデザインズ」だったりするのかな。
ただ、今の若いひとたちは、できる範囲でやろうという気持ちのほうが強いかもしれない。ステップとしていつまでにお店を持つとか、次はここに行くとか持たないで自然にやっているのかもしれないですね。生活できて、一定の範囲で自分のクリエーションを伝えていくことが大事で、生業としてやっているような印象です。お店をつくって、洋服をたくさんつくって、借金してもパリに出るんだっていう意識だけでなく多様化している。
つくり手だけでなく、ファッションを売る側も曲がり道に来ている。かつては消費の殿堂だった都心の百貨店もファッションビルも昔日の勢いはなく、主役は郊外のショッピングモールになりつつある。SPA(*)がメインのモールには、若いつくり手のための場所はない。ファッションビルも新たな方法論を模索しているようだ。
——自主編集ショップをやって感じたのは、今後パルコのようなファッションビルのビジネスの方法はもっと変化していくかもしれないということです。今までのファッションビルのやり方だと、ブランドが大きくなって、テナント出店してもらい、そこからお家賃をいただくというビジネス構図ですけれど、そのやり方が今後も成立するためには、ある程度の規模のブランドが出てこないと成り立たない。
むしろ自主編集の売り場を広くして、ブランドさんはとにかく質の高いものだけをつくって供給してもらい、運営や商品管理はよりプロフェッショナルに分業していく。そういうことを考えると、ブランドの成長にも可能性があるんじゃないでしょうか。EC(イー・コマース=ネット販売)がもっと拡大すると思うので、そういうビジネスのやり方がどんどん増えていくと思います。
ヘアアクセサリーで人気のとあるブランドがありまして、アンティークやビンテージの生地や部品を使ってつくっている。もともと男女2人で始めて、京都拠点でやっているんです。彼らはパートとしてベテラン女性の職人集団を抱えています。これまで内職で水引や和装の小物をつくっていたけど今は仕事がない、という方たちに、高い技術を提供してもらっているんですね。そのためクオリティは素晴らしい、値段はこなれて、高くはない。これと同じことを大手が真似をしようとしても、パート女性たちのネットワークがないとできない。その生産体制がある彼らだからできることだと思うんです。
これからのブランドは、在庫を持たずにクオリティの高さと生産体制をうまくやれるところが生き残っていくのではないでしょうか。SPAや大手ファッションブランドが市場を100%占めることにはならないと思うので、90%なのか80%なのかはわからないですが、残りはそれとは違う新しいビジネスのやり方が出てくるでしょう。今は移行期間ではないでしょうか。
わたしもこれからのファッションは大手のファストファッションと、そうではないところへといっそう二極化していくと考える。独立系デザイナーはさらに厳しい状況のなかで、服を売るための新しい方法論を見つけていかなくてはならない。これからのデザイナーは個性だけではビジネスをやり続けるのは難しくなるかもしれない。ファッションは絶えず新しいアイデアを出していかないと飽きられてしまうからである。しかし「ミツカルストア」のように、それを仕掛けるひとがいて、ブランドをうまくプロデュースをする仕組みがあると、ローカルのつくり手が継続的にやってくのも容易になるかもしれない。
*SPA 企画生産から販売までを自社で手がけるアパレル