1) 地方ならではのファッションをすくいあげる
パルコ ミツカルストア・平松有吾1
渋谷パルコ・パート1の1階に「ミツカルストア バイ ワンスアマンス」はある。渋谷パルコは東京ファッションの中心地であり、その1階フロアには「コムデギャルソン」「イッセイミヤケ・バオバオ」「ミュウミュウ」など有名ブランドがひしめいている。
「ミツカルストア」のユニークなのは、デザイナーズブランドのいわば聖地といいうる場所にもかかわらず、地方発の若手デザイナーの服や雑貨をセレクトしているところだ。関西、九州、北海道、あるいは海外、それも韓国、タイなどの周縁エリアのブランドを精力的に紹介している。「ミツカルストア」を企画・運営している1人が、パルコ新規プランニング部の平松有吾さんだ。なぜ東京にあるパルコでローカルなブランドを取りあげるのだろうか。
パルコはもともと70~80年代の東京デザイナーズブランド・ブームで一時代を築いたファッションビル。2009年に東京から福岡パルコ準備室に異動となった平松は、地方ならではのファッションがあることを発見し、その着想を得たという。
2010年当時、博多にはソラリアとかイムズという商業施設があったり、他にもいろんな施設ができたころで、パルコとは異なるそちらのエリアに客が流れていた。話題を新しくつくっていかなければいけないということで、月に一度、ショップで取り扱うブランドを変えていくことにしました。そうすることで、お客さんが新しく来たり、リピートするきっかけになるのではないかと考えたのです。また現地ブランドのインキュベーターとしての機能も持たせたかったですし。
実際に福岡で服をつくっているひとたちは多いのだろうか。
——けっこういらっしゃいますよ。「ワンスアマンス」は半分雑貨で半分洋服というところなので、雑貨のほうが多かったりします。つくり手さんは地方に拠点を置かれていて、東京とローカルの自分のエリアを行ったり来たりして制作しているひとが多いです。
もっとも福岡のお客さんは東京情報が好きなので、そんなに福岡のローカル要素を出したわけではないんです。目安としては全体の15%程度を福岡や九州に関連するブランドにしています。
2011年、平松は東京に異動となり、福岡での経験を活かして、月に1回新しい企画を回していくショップを渋谷パルコで提案した。そのとき、平松さんの頭にあったのが、それまで地方や海外で見てきたファッションの動きである。海外といっても欧米ではなく、韓国やタイなど、ファッション業界的にはこれまでローカルだった国々。そうした国々にも新しいファッションが胎動していた。新しい文化に出会う場所をつくることができないか。その発想が、ミーツ・カルチャー(多様な文化に出会う)ミーツ・ローカル(足元を大事にする)=ミツカルストアにつながっていったのである。
渋谷パルコの1階は最先端の一流ブランドの集まる一等地だ。売り上げ目標も高いだろうが、ローカルなブランドでも勝負できるのだろうか。
——最初の1年は企画によって波がありましたが、今年になってから好調に推移していますね。
客層はけっこう幅広いです。20代前半から40代くらいまで。それこそパルコ劇場に行かれるような余裕のある方とか、ふだんギャルソンを買われているような方もいますし、外国人もすごく多い。2割くらいは海外の、それも中国、タイなどアジアの方ですね。個性的なブランドが多いので、これは自分の国にはない、といって買っていかれます。
手がけてみると、みんながみんな既成のブランドアパレルがほしいわけではない、クオリティのある手仕事に対して、渋谷も福岡も一定の顧客はいるなという感じです。