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アネモメトリ -風の手帖-

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#73
2019.06

コミュニティの、その先へ

3 神奈川・鎌倉の個人店とコミュニティ
4)「ファーム・トゥ・ボディ」というフォーマット
——ポンポン ケークス ブールヴァード・立道嶺央さん(2)

コミュニティというものを強く意識して現在にたどり着いた立道さんだが、最近、コミュニティという言葉に、少し窮屈さも感じている。コミュニティ論を大事にすればするほど、コミュニティの内側にいるひとと外側にいるひとの溝が深まる気がするからだ。

———僕も昔はコミュニティのことばかり考えて、熱心にあちこち顔を出して、そのつながりの内側で助け合ったりすることが豊かなことなんだと思っていました。でも実際に商いを始めてみると、まちは多様なひとで構成されていて、コミュニティ論とは全然関係ないところで暮らしているひとの方が圧倒的多数なんですよね。僕らは「コミュニティの外側」と言ってるんですけど。なんというか、器を買ったり、お酒を買ったり、歯医者に行ったり、髪の毛を切ったりといったことがこのまちで完結することが、今、僕は楽しいんです。だから、このまちの暮らしにコミットする一部としてこのお店があることの方が、僕にとっても、まちにとっても、より重要な気がするんですよね。

一見、コミュニティを否定する意見にも思えるが、実は違う。立道さんはコミュニティの周縁を限りなく広げ、境界をなくしてしまおうと言っているのだ。それはいったんコミュニティというものを経なければつかめない感覚だろう。そんな立道さんは、2018年、店で使っている材料や道具を販売する「ポンポン パントリー」をすぐそばにオープン。さらに次の段階へ進もうとしている。

———実は今、服づくりを手がけています。うちのケーキは「ファーム・トゥ・テーブル」という考え方で、畑や農場をよく知った上で仕入れた材料だけを使っているんですが、それを洋服でもできないかなって。「ファーム・トゥ・ボディ」ですね。自分たちがわかる材料を必要な分だけ仕入れて、地域の縫い子さんにお願いして、いい服をつくって、それを地域のひとに着てもらう。最終的には、梶原を含めたすごく小さなエリアのなかで、衣食住の循環社会をつくりたいと思っています。地域産業をはじめ、鎌倉で暮らすひとたちが持っている宝を発掘していきたいんです。この場所は家賃の高い駅前とは違って利益に追いかけられずに済む。だから長い時間をかけてやっていくつもりです。

ファーム・トゥ・ボディ、という言葉に鎌倉らしさを感じた。このまちの個人店には、そういう個人の身体感覚を手放さない健やかさがある。それはひとえに自分もこのまちの一員として心地よく過ごしたいという、当たり前のようで忘れられがちな視点を彼らが持っているからだろう。

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「ポンポン パントリー」は、この4月にリニューアルオープンしたばかり。立道さん愛用の浅めのコットンキャップやTシャツ(写真3枚目)、エプロンやスニーカーまで、「工場などを訪ねて、自分たちで生産背景を説明できるものを選んでいます」とスタッフの竹山健太さん(写真2枚目)。「ポンポン ケークス ブールヴァード」で使っている食料品や掃除用具も購入でき、ゆくゆくは菓子レシピも提供する予定

「ポンポン パントリー」は、この4月にリニューアルオープンしたばかり。立道さん愛用の浅めのコットンキャップやTシャツ(写真3枚目)、エプロンやスニーカーまで、「工場などを訪ねて、自分たちで生産背景を説明できるものを選んでいます」とスタッフの竹山健太さん(写真2枚目)。「ポンポン ケークス ブールヴァード」で使っている食料品や掃除用具も購入でき、ゆくゆくは菓子レシピも提供する予定