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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#73
2019.06

コミュニティの、その先へ

3 神奈川・鎌倉の個人店とコミュニティ
2)「中2階」というフォーマット
——朝食屋コバカバ・内堀敬介さん(2)

「コバカバみんなの句会」は、2015年、内堀さんと鎌倉在住の俳人である小助川駒介さんが始めた句会だ。普段は朝食屋コバカバに集って毎月1回行っているが、この日は新年最初の句会ということで、特別に鎌倉文士のお孫さんが暮らす家の広間で行われた。

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鎌倉では、自宅の一部を開放し、お客さんを招いて花見や雪見を楽しむ「住み開き」という文化があるそうだ。この日お邪魔した鎌倉文士のお孫さんの家の仏壇には、歌集と黄色いバラが手向けてあった

鎌倉では、自宅の一部を開放し、お客さんを招いて花見や雪見を楽しむ「住み開き」という文化があるそうだ。この日お邪魔した鎌倉文士のお孫さんの家の仏壇には、歌集と黄色いバラが手向けてあった

この日の参加メンバーは、イラストレーターや雑貨店オーナー、サラリーマン、子連れのお母さんなど約15名。課題の季語を使い、前もって5句つくってくること以外には特に決まりごとのないフリースタイルの句会だ。各々がつくってきた俳句を短冊に清書しながら、「白鯨って冬の季語だっけ」「これなんて読むの?」「台湾栗鼠(りす)だよ」など、素朴なおしゃべりが飛び交い、会は終始なごやか。内堀さんも句会の進行をしつつ、みんなの俳句の出来のよさに唸ったり、時にはツッコミを入れたりと楽しそうだ。もちろん、自分がつくってきた俳句も披露する。

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テーブルには短冊や清記用紙、各メンバー愛用の歳時記、みかんやスナック菓子、ビールも並び、ほのぼのとした雰囲気。しかし句会の流れはきちんと踏まえて行われる

テーブルには短冊や清記用紙、各メンバー愛用の歳時記、みかんやスナック菓子、ビールも並び、ほのぼのとした雰囲気。しかし句会の流れはきちんと踏まえて行われる

———俳句って、古語や旧暦の季語を使うので、現代にいながら自然とつながっていた頃の世界に飛べるというか、「中2階で遊んでる」感じがするんですよ。みんな仕事とか家庭とか大変なんだけど、句会に来るとその中2階にすっと行けて、「じゃ、また」って現実に戻る。その中2階で会える関係性が大事。俳句界ではそれを「句友(くゆう)」と言うんですけど。鎌倉は小さなまちだから、ミルフィーユみたいに何層もレイヤーをつくって、今日はこのレイヤーで遊ぶけど明日は違うレイヤーで遊ぶみたいな、しかもそれぞれのレイヤーは独立してて必ずしも交わらないみたいな、そういうスペースの共有の仕方が必要なんです。

その言葉通り、内堀さんは、4月号で紹介した「面白法人カヤック」の柳澤大輔さんや、5月号で登場した「NPOかまわ」の宇治香さん、「NPO法人ルートカルチャー」の瀬藤康嗣さん・勝見淳平さんらをはじめ、あらゆる「レイヤー」のひとたちと親交が厚い。鎌倉の異業種のひとたちに声をかけ、いきなり銭湯に入って裸の付き合いをする「クレイジー銭湯」なる会も行うなど、自身が「中2階」的な存在として、まちをつなぐ役を買って出ている。そんな内堀さんは、なぜ、鎌倉に多いNPOなどの組織のかたちをとるのではなく、あえて個人店の店主として、その役を能動的に担うのだろうか。

———組織をつくると、宣言しないといけなくなったり、管理や運営でいっぱいいっぱいになるのが嫌なんです。それよりも、あるテーマで心が満たされることがあれば集まって、終わったら1回解散、という方がいい。今の地方創生とかコミュニティづくりって、ソーシャルデザイナーみたいなひとが出てきて、いいロールモデルをつくって他の地域でも真似てもらおう、というものが多いでしょう。でも、本当はそのまちで自分が夢中になれることをひとつでも多く見つけることが大事だと思う。でないと、続かない。まちを盛り上げるためでもなく、誰かに見せるためでもなく、自分がやったら楽しいだろうなと思うことをやりたい時にやること。心と体を一致させること。それが結果的に、自分にとって楽しいまちとかコミュニティを生み出すんだと思います。

この日の句会後、メンバーの発案で、「これまでのベスト・オブ・ベスト俳句を集めてみんなの句集をつくろう」という計画が持ち上がった。そして、早くもこの5月に「ブックカーニバル in カマクラ 2019 」というイベントでリリースが決まった、との連絡があった。やりたいことをやりたい時にやっているひとにしかない、健やかなスピードを感じた。