1)「陸サーファー」というフォーマット
——朝食屋コバカバ・内堀敬介さん(1)
鎌倉市生まれの内堀敬介さんは、「鎌倉市農協連即売所」(通称:レンバイ)のすぐそばにある朝食専門の食堂「朝食屋コバカバ」の店主だ。鎌倉のコミュニティについて下調べを始めた時、地元の人々から「鎌倉のハブ的存在」として、すぐに名前が挙がってきたのが内堀さんだった。
「コバカバ」という名は、内堀さんの両親が60年間営んでいた「小林カバン店」を略したものだ。2006年、その閉店を機に、日替わり定食を供する「食堂コバカバ」を開店。2017年に、朝食屋コバカバとしてリニューアルした。今は朝5時から動き出し、15時には仕事からあがる毎日だ。
———もともと季節とか自然の時間の流れに興味があって。太陽が出ているうちに一生懸命働いて、月が出ているうちに体を休めて、っていう、自然のリズムにのった生活が提案できないかなと思ったのがリニューアルのきっかけです。明るいうちに活動して、暗くなったら寝るようにすれば、電気代とか余計なお金もかからないし。夜を昼みたいにしようとするからお金がかかるんですよ。
太陽を中心に描いた円盤形の暦「地球暦」が店に飾られているのも、毎月第3・4日曜の朝に開かれる音楽ライブと食のマーケットのイベント「Green Morning Kamakura」の主催を10年間続けているのも、同じ理由からだ。内堀さんによれば、鎌倉は「ある意味で不自然なまち」なのだという。人口17万人程度に対し、観光客が年間で2,000万人以上も来るため、店をやっていると、平日と週末、繁忙期と閑散期の差が激しく、疲れてしまうこともあるそうだ。
———結局、僕も含めてみんな、人間都合の時間の流れに振り回されているんですよね。だからこそ、他の動植物と同じ自然の時間に意識的にチューニングしていった方がいいし、その方が心地よく生きられるんじゃないかなと思う。だから、僕はいつも「季節の波に乗ろう」って言ってるんですけど。来た波にうまく乗れば、自分で泳ぐよりずっと遠くまで行けるサーフィンみたいに、自然の力を借りて、自分の力を効率よく最大限まで発揮するみたいなことが、陸の上でもできると思うんです。まあ、僕はサーフィンはやらないんですけどね(笑)
そう、内堀さんは「陸(おか)サーファー」を自称している。陸サーファーとは、かつてバブル時代にサーフィンをしないのにサーファー風のファッションでまちを闊歩する若者を指した言葉だ。しかし、内堀さんのいう陸サーファーは「季節の波に乗るひと」のことを指す。
そんな内堀さんが、今、夢中になっているのは、季語を使う「俳句」だ。「サーフボードにたとえれば、俳句はショート、短歌はロング。俳句もサーフィンぐらいたしなまれていいと思うんですよ」と話す内堀さんが、月に1度、仲間と句会をしているというので、参加させてもらうことにした。