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アネモメトリ -風の手帖-

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#72
2019.05

コミュニティの、その先へ

2 神奈川・鎌倉のNPOとコミュニティ
3)「NPO法人」というフォーマット
——NPO法人ルートカルチャー・瀬藤康嗣さん、勝見淳平さん1

NPO法人ルートカルチャー」(以下、ルートカルチャー)は、「鎌倉の地に根を張り、新しい『文化的交流の場』をつくること」を目的に活動するNPO法人(特定非営利活動法人)だ。
鎌倉の野菜市場「鎌倉市農協連即売所」(通称:レンバイ)内にあるパン屋兼カフェ「パラダイス・アレイ」で再会した旧知の仲間が中心となり、2006年、「鎌倉と本気で遊びたい」という思いのもと、鎌倉駅そばの妙本寺で野外イベント「新月祭」を開催。同年、NPO法人として認可された。
現在、活動を共にするメンバーは15名ほど。理事長を務めるのは、瀬藤康嗣さんだ。

瀬藤康嗣さん

瀬藤康嗣さん

———設立のきっかけは、淳平(後出の勝見淳平さん)が見つけてきた由比ヶ浜の空き家の古民家を、アーティストや地域のひとが集える拠点にしたいという話からでした。古い建物を活用することは地域のためになるだろうし、職業や立場もいろいろで、交渉の仕方もよく知らない僕らが行政と対等に話すには、NPO法人になっといた方がいいんじゃない? と僕が提案したのが始まりです。(瀬藤)

2章で宇治さんが「NPOを名乗ることで対話がしやすくなる」と話してくれたように、瀬藤さんたちも交渉相手として対等に見られるよう、名刺代わりにNPO法人化を志したところが面白い。

瀬藤さんは神戸出身。1997年、大学院への進学を機に鎌倉に来て、そのまま住み始めた移住組だ。

———鎌倉って神戸と似てるんです。海も山もあって、東京や大阪ほど混んでなくて。でも、いざ住んでみると、言われてるほど文化的ではないな、というか。少なくとも当時の自分のアンテナには引っかかるものがなかった。俳句の会とか、歴史探索の会はいっぱいあるんですけどね。同じ古都でも、京都だと京大の吉田寮とか西部講堂を拠点にサイケカルチャーが発展してたり、アーティスト集団のダムタイプやオルタナティブ・ロック・バンドのボアダムスがいたりするじゃないですか。鎌倉も面白いひとがたくさん住んでるし、場所もあるから、もうちょっとコトが起こってもいいよね、という話を、淳平ともよくしてました。(瀬藤)

淳平とは、副理事長の勝見淳平さんのことである。仲間の再会の場となったパラダイス・アレイは、勝見さんが2005年に始めた店だ。鎌倉生まれの勝見さんにとっても、鎌倉はもどかしさを感じる場所だった。

左より瀬藤さん、勝見淳平さん。右は飛び入り参加してくれたルートカルチャー設立メンバーの1人である礒部謙介さん

左より瀬藤さん、勝見淳平さん。右は飛び入り参加してくれたルートカルチャー設立メンバーの1人である礒部謙介さん

———僕はもう鎌倉から出たくて。鎌倉って文化的だねと言われても、映画館がひとつもないのに何が文化的なんだろうって。90年代後半は海外を放浪したり、二階建てバスで日本縦断ツアーしながら野外パーティーをしたり、どうすればずっと遊び続けられるかを考えてました。で、縦断ツアーが終わった頃に鎌倉の市場の物件が空いてるという話が転がり込んできて。パラダイス・アレイを始めて14年目になりますけど、こんなに続くとは思ってなかったですね。ルートカルチャーという名前も最初は腑に落ちてなかったけど、パンを焼き始めて、自分たちの世界と菌の世界がそんなに変わらないことを知って、菌の世界にも根、つまりルートを株分けして培養するみたいなことがあるらしくて、培養することを英語でカルチベートと言うんですけど、それが名詞になるとカルチャーになる。なるほど! と。最近、ようやく腑に落ちてきたところです。(勝見)

「ルートカルチャーという名が最近ようやく腑に落ちた」と正直に話す勝見さんと、それを非難することもなく「あー、そうなんだ」という表情で受け止めている瀬藤さん。
名前やかたちにこだわるよりも、「誰かが今、あるようにあること」を尊重しようとするその光景が、とても健全なものに映る。
「鎌倉では、相手に合わせて自分をつくらなくてもいいんです」。そう、瀬藤さんが言っていた。

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「ルートカルチャー」始動のきっかけとなった「パラダイス・アレイ」。勝見さんが培養する天然酵母を使ったフォカッチャやバゲットは、どれも菌の力を感じる力強い味。「鎌倉市農協連即売所」内に店があり、市場の野菜もふんだんに使われる。調理台をテーブルにしたカフェ席では、いろいろなひとがお茶を飲み、話し、帰っていく

「ルートカルチャー」始動のきっかけとなった「パラダイス・アレイ」。勝見さんが培養する天然酵母を使ったフォカッチャやバゲットは、どれも菌の力を感じる力強い味。「鎌倉市農協連即売所」内に店があり、市場の野菜もふんだんに使われる。調理台をテーブルにしたカフェ席では、いろいろなひとがお茶を飲み、話し、帰っていく