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アネモメトリ -風の手帖-

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#72
2019.05

コミュニティの、その先へ

2 神奈川・鎌倉のNPOとコミュニティ
4)「なりゆき・芋づる式」というフォーマット
——NPO法人ルートカルチャー・瀬藤康嗣さん、勝見淳平さん2

設立以降、ルートカルチャーは、海をテーマにした多彩な授業を開講するイベント「鎌倉 海のアカデミア」をはじめ、アート・文学・ダンス・音楽などのジャンルを横断するイベントを開催してきた。
地域間交流にも力を入れており、活動の場はニューヨーク、メキシコ、パレスチナ、ルーマニア、ヨルダン、福島、別府、伊勢、益子と、国内外に広がりつつある。
が、設立から13年目を迎えた今、季節が移り変わるように、ルートカルチャーのメンバーの関わり度にも変化が生まれている。しかし、瀬藤さんたちは、そこもあまり気にしていない。

———今、『ティール組織ーマネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』という本を読んでるんですけど。その本に、これからは「予測と制御」ではなく「感知と応答」だと書かれてて。これまでは、今後はこうなると予測して、計画を立てて、その通りにいくよう制御してたけど、今は、アンテナを張って、感じたものに反応して動いていくというやり方が新しく出てきてると言っている。僕はそれがすごく腑に落ちる。ルートカルチャーで前から言ってる「なりゆきと芋づる式」に近いというか。ない? そういう感覚。(瀬藤)

———わかんない。感知と応答はわかるよ。でも俺なんかひたすらそれをやり続けて、予測と制御がないまんまきちゃってるから、逆にほしい。(勝見)

———淳平は、毎瞬間、感知と応答やもんね。僕は1年単位では予測と制御をするんですよ。でも、10年計画とか長いビジョンではしない。こういう感覚ひとつとっても、ルートカルチャーは本当にいろんなひとが交ざってますね。僕は、それはルートカルチャーのいいところだと思う。普通、こっちはこっち、あっちはあっちって別々になりがちなんですけど。(瀬藤)

交ざっても、揺れても、変化してもいい。
しかし唯一、「惰性でやりたくない」という強い意志が、瀬藤さんたちにはある。

初開催から4年目となった2018年の鎌倉 海のアカデミアでは、横のつながりをつくることを目標に、プラスチックを使わない社会を目指す「プラスチックフリージャパン」や、21世紀型の学習環境をつくる「ファブラボ鎌倉」、ルートカルチャーより若い世代にあたる企画制作団体「chameleon」などの団体とつながり、新しく活動を共にした。

そんなルートカルチャーの開かれた雰囲気に惹かれるのは、若い世代だけではないようだ。

———鎌倉って、伝統を継いでいかなきゃいけない使命を背負っている方々が、僕らの上の世代に結構おられるんですよ。でも、何か新しいことをしようとすると「何を言ってるの。あなたの役目は伝統を守っていくことでしょ」と猛反対されるみたいで。そういうひとから、たまに僕らに連絡が来たりします。(瀬藤)

———この間も、茶人の方と茶室でカカオのセレモニーをして。メキシコから鎌倉にシャーマンが来て、太鼓を叩いて歌いながら、抹茶の濃茶みたいなのをカカオでつくって。その間に釜のところでお香を焚いたりとか。そのカカオの飲み物も、最初は蜂蜜とか何も入れないで、どろっとしてて、苦くて。効能的にも抹茶並みにすごくて、いろんなところがお茶とリンクしてるというか。茶道になる過程で抜けちゃった部分が、逆にカカオの方に残ってるというか。それが面白かったんで、今度、パラダイス・アレイでも茶会をやるんです。(勝見)

感知と応答、なりゆきと芋づる式。それは一見ゆるくも見えるが、惰性に乗じて流されていくこととは、必ずしもイコールではなさそうだ。言ってみれば、大きくうねりながらやってくる予測不能な波に次々と乗りながら、毎瞬間に進む方向を決めていくようなものだろう。

そんな、いつでもどこでもどんな波でも「いったんあるものとして見る」というニュートラルな態勢を保持することは、実は非常な知性と体力が要ることだ。そして、そのことは同時に、いつでもどこでもどんな自分でもその場にいられるということを担保しているともいえる。
鎌倉のNPOに関わる人々が、目には見えない多様性というものに接する態度の持ち方を、それぞれのスタイルでゆっくりと育み、私たちに見せてくれている。

次号では、企業でもNPOでもない「個人店」というスタイルをあえて選び、独自のコミュニティづくりを実践する店主たちを取材する。

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「地域の遊休施設を、地域の文化活動の拠点にしよう」とルートカルチャーを立ち上げて13年。由比ヶ浜や材木座海岸を舞台にイベントを開催する機会も多い。2枚目の写真の冊子は7年間の活動をまとめたフリーペーパー『ROOT CULTURE通信』01号

「地域の遊休施設を、地域の文化活動の拠点にしよう」とルートカルチャーを立ち上げて13年。由比ヶ浜や材木座海岸を舞台にイベントを開催する機会も多い。2枚目の写真の冊子は7年間の活動をまとめたフリーペーパー『ROOT CULTURE通信』01号

ソンベカフェ
http://song-be-cafe.com

ルートカルチャー
https://rootculture.jp

取材・文:姜 尚美
編集者、ライター。出版社勤務を経て、現在はフリーランスで雑誌や書籍を中心に執筆活動を行う。
著書に『あんこの本』『京都の中華』、共著に『京都の迷い方』(いずれも京阪神エルマガジン社)。

写真:長野陽一
写真家。1998年、沖縄・奄美諸島の島々に住む10代のポートレイト写真「シマノホホエミ」を発表して以来、全国の離島を撮り続ける。2001年に写真集『シマノホホエミ』(情報センター出版局)、2004年に写真集『島々』(リトルモア)を上梓。2012年には島に暮らす人々を海の中で撮影した写真集『BREATHLESS』(フォイル)を出版。現在、北鎌倉在住。