アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#17
2014.05

岡山・西粟倉村 ものづくりから始まる、森林づくり、村づくり

後編 村民と移住者たちの森林づくり、ものづくり
8)染料がいっぱいの村
草木染め作家・鈴木菜々子さん2

村に来て1年ほど経つと、家をシェアしていた女の子が故郷に帰ることになっため、鈴木さん一家はそこにそのまま住み続けることにした。鈴木さんが草木染めを再開したのもそのころだ。

———生活も少し落ち着いてきたので、空いた時間に草木染めのワークショップでもしてみようかと試しにフェイスブックで募集してみたら、全然知らないひとが3人くらい自宅まで来てくれたんです。ワークショップをするときは、いつもみんなで、河原なんかに材料を摘みに行くんですけど、ここと同じくらい自然の多い田舎から来られた方でも、「この草はこんな性質を持っていて……」と説明すると、草の名前すら知らなかったりするんですね。染めるだけじゃなくて、そうやって染料を探すことで、ふだん見ていないものが見えてくる。参加される方も、そのへんが面白いみたいです。

実際、鈴木さんが染料図鑑片手に西粟倉村を散策してみると、たくさん使えるものが見つかるそうだ。彼女の目には、村全体が染料の宝庫に映っているというのが面白い。

———あれもある、これもある! という感じで。草木にもそれぞれいい色が出る時期があるので、季節に追いつくのが大変なくらいです。自分でも畑を借りてマリーゴールドを栽培してるんですけど、もう摘みきれないほど咲くんです。来年はひとを雇わなくちゃいけないかもしれないくらい。でも、今でこそご近所さんに“草木染めをしてるひと”ということを知ってもらってますけど、わかってもらうまでは、やっぱり1年くらいかかりましたよね。そこらへんをうろうろしながら、ひとの家の庭で染料になりそうなものを見つけると、いきなりインターホンを押して「あのー、すみません、ちょっと草、切らせてもらっていいですか?」「はあ?」みたいなことをやってましたから(笑)。

よそのひとが地元のひとと顔なじみになるきっかけは意外とつかみにくいものだ。鈴木さんの場合は、染料となる草木がその役目を果たしてくれたのかもしれない。今では、タマネギの皮が染料になることを知って、自分の家の畑で育てたとれたての泥つきタマネギを差し入れしてくれるご近所さんもいるそうだ。
鈴木さんが今、目をつけているのはヤシャブシ。黒っぽい色に染まる貴重な染料だ。

———東京にいた時は、染料店で500g2,000円くらいで買ってたんですけど、それが西粟倉にたくさんあるんですよ。でも、ここに来て、その値段の意味がわかりました。まず、背がすごく高い木なので、高枝切りばさみが届く高さの木を見つけるだけでひと苦労なんです。仮に見つけたとしても、9月ごろの緑色の実を収穫して、それを茶色くなるまで乾燥させて……とすごく手間がかかる。都会だったら買って終わりだけど、こうして実際にやってみないと、その価値はわからなかったです。

草木染めは、息子の夏の自由研究になったこともある。2人とも、西粟倉の小学校と保育園に元気に通っているそうだ。

———すっごく楽しそうですよ。吉野川で魚を釣ってきて、いつまにか自分でさばくようになってて。家族みんなで食べます。

育ち盛りの子を持つ親である鈴木さん。定住も視野に入れているのだろうか。

———少なくとも上の子が中学3年生になるまではいようかと話してます。村に高校がないので、ずっと住むかどうかは、そのときになってみないとわからない。でも、ひとは出たり入ったりしないとダメなんだと思うんです。こういう場所だからこそ。

草木染めは、染めと媒染を何度も繰り返すことで、色を重ね、定着させていく。しっかり染めようと思うと1日仕事になるそうだ。鈴木さん一家は、これからの西粟倉村での暮らしを、どんな色に染め上げていくのだろう。

底冷えのする寒い日だったが、ヒノキの香りと湯気が立ちこめる工房内は、心地のよい温もりで満たされていた。「これからの季節はヨモギが楽しみ。春から初夏のヨモギは、きれいな薄緑に染まるんです」と鈴木さん

底冷えのする寒い日だったが、ヒノキの香りと湯気が立ちこめる工房内は、心地のよい温もりで満たされていた。「これからの季節はヨモギが楽しみ。春から初夏のヨモギは、きれいな薄緑に染まるんです」と鈴木さん