1)「まちの○○シリーズ」というフォーマット
——面白法人カヤック(1)
鎌倉御成商店街のなかほどにある砂利道の路地に立つ、青と白を基調とした三角屋根の建物。
カフェのようでも集会所のようでもあるこの建物に、正午を過ぎたころ、続々とひとが集まり始めた。
この建物の名は、「まちの社員食堂」。
2018年4月にオープンした、鎌倉市内で働くひとであれば誰でも利用できるユニークな食堂だ。
メニューは、地元で人気のカフェやレストラン約40店が担当。「健康なもの」「地の食材を使ったもの」「おいしいもの」という3つの方針のもと、週替わりで料理を提供している。
利用にあたって持参するものは、名刺など鎌倉市内で働いていることがわかるもののみ。入口に用意されたストラップ付きカードホルダーに名刺を入れて首にかけ、食券機で食券を買って、列に並ぶ。
食券機には、鎌倉市役所や鎌倉市観光協会、鳩サブレーで知られる「豊島屋」など、鎌倉に拠点を持つ約30の企業や団体の名がクレジットされたボタンがずらりと並んでいる。
これらは、この社員食堂を応援する会員企業・団体で、会費を払う代わりにそこの企業の社員は100円引きになるというシステムだ。
一方、会員企業に所属していないひとやフリーランスのひとは、「非会員企業」ボタンを選択。
よく見ると、「お酒持ち込み1000円」「お皿洗いでランチ10円!」といったボタンまである。
「今日はごはんを多めによそわれた方がいいですよ。マグロの漬けがとてもおいしいので」
店長の石原愛子さんの声がけに従い、客は自分で食器をとったり、ごはんをよそったり、味噌汁を注いだりと、セルフサービスで定食を完成させる。
この日のランチメニューは、長谷にある「定食屋しゃもじ」の「三崎マグロの漬け丼定食」だ。
オープンからまだ1年足らずだが、相席になったのを機に異業種で働くひとたちが名刺交換したり、石原さんがカウンター席のひとり客同士を紹介したりする場面も多く、早くも会社の垣根を超えたコミュニティを生み出す場ともなっている。
それほど調理器具の整っていないこの厨房で、店ごとに違うやり方、店ごとに違うメニューを週替わりで打ち合わせし、滞りなく提供するのは、決して簡単なことではないはずだ。
この食堂を立ち上げたのは、「面白法人カヤック」(以下、カヤック)という鎌倉に本社を置くIT企業。
まちの社員食堂のほかにも、鎌倉の企業で働くひとの子どもを預かる「まちの保育園」、鎌倉のカフェやレストランで映画を上映する「まちの映画館」、地域の人材を共有する「まちの人事部」といった「まちの○○シリーズ」を、自ら手がけたり、支援している。
自分のまちにもあればいいのに、と思わせるこのフォーマットは、一体どのようにして生まれたのだろう。