アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#70
2019.03

スローファッション新世代

後編 ファッション編
5)新世代はサバイバルできるのか

居相と長は服づくりの方向性はかなり違うが、手づくりという発想には共通する土壌があるようだ。彼らは「ここのがっこう」で学び、手づくりブランドを先行していた山杢勇馬とも知己の仲。「テキスタイル編」で取り上げた糸編の宮浦晋哉と山杢も卒業生。その意味で、彼らは同じサークルの出身ともいえる。
彼らを新世代の代表というのは早計だし、多様な彼らをひとつにくくるのも無理があるが、自分の手の届く範囲で生活したいという意識、またネットを活用して同じ価値観の人々と関係を築くことには、新しいファッションのひとつの方向性があるのかもしれない。
自分の居場所をつくって、そこに同じ価値観のひとを呼び、つながっていく。それは居相、長だけでなく、産地の活性化に取り組む宮浦や小島にも共通する、スローファッション新世代の特徴だろう。
興味深かったのは、彼らが上の世代に対して強い不信感をもち、自分たちと同世代の同じ価値観の人々とのつながりを志向していたことだ。現状を打破していくためには、旧弊なルールから逃れ、新しいしくみをつくっていかなくてはならない。それは不透明な時代を生きぬくための生存戦略のようにも見えた。
スローファッション新世代と話をして、やりたいことを追求する強さとサバイバルするたくましさが印象に残った。その一方で、このような動きがこれからの社会にどう影響していくのか、まだはっきりと見えてこない。クリエーションの真価は継続していくことにもある。彼らはこの先、5年後、10年後にどのような場所に立っているのだろうか。

iai
http://iaihanaiten.com

osakentaro
http://osakentaro.com

ここのがっこう
http://www.coconogacco.com/

取材・文:成実弘至(なるみ・ひろし)
1964年生まれ。京都女子大学教授。ファッション文化、若者文化、服飾史などを研究する。著書は『20世紀ファッションの文化史―時代をつくった10人』(河出書房新社、2007年)、編著として『コスプレする社会―サブカルチャーの身体文化』(せりか書房、2009年)、『モードと身体-ファッション文化の歴史と現在』(角川書店、2003年)、共著に『JAPAN FASHION NOW』(Yale University Press、2010年)など。展覧会「感じる服 考える服」(東京オペラシティアートギャラリー、2011年)のキュレーションを手がけた。

写真(iai):森川諒一(もりかわ・りょういち)
1982年生まれ。写真家。2009年よりフリーランスとして活動する。人物撮影を中心に京都を拠点とし幅広い制作活動を行う。

写真(osakentaro):川瀬一絵(かわせ・かずえ)
島根県出雲市生まれ。島根大学教育学部、東京綜合写真専門学校卒業。2007年より写真家・池田晶紀の主宰する写真事務所「ゆかい」に所属。テーマを定めずに衝動的に写真を撮り、それらを編集しながら衝動の訳を探るような作品づくりをしている。

編集:木薮愛(きやぶ・あい)
1989年岐阜生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒業。雑誌やウェブの記事を編集・執筆するほか、コーディネーターやアートフェスティバルのPRとしても活動する。