アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#13
2014.01

暮らしのなかの「うつくしいかたち」

後編 結びあい、育ちゆく芸術と手しごと
5)ジョージ・ナカシマと椅子の文化
 日本的な感性を生かしたナカシマの家具は、アメリカでは富裕層に広く人気があった。今現在、ナカシマの家具をつくっているのは日本では桜製作所、アメリカではナカシマの娘、ミラさんが守り続けるペンシルベニア州ニューホープの工房のみである。
ナカシマの家具でいちばん大事なのは「木どり」である。同じウォールナットの木を使っていても、色味も表情もまったく違う。見ようによっては、不良品とも取られかねない部分であっても、ナカシマは「アート」であるとして、木の個性を生かしたかたちを考えた。桜製作所で「木どり」をするのは、今のところ会長だけだという。
木の景色を生かして「木どり」する

木の景色を生かして「木どり」する

椅子だけでなく、テーブルやベンチなどの家具も揃う

椅子だけでなく、テーブルやベンチなどの家具も揃う

記念館には代表作「コノイドチェア」をはじめ、20種に近い椅子や、ベンチ、テーブル、収納家具、照明器具が並ぶ。すでにライセンス製作に着手して半世紀近くを経て、アンティークの域に達した家具がそろっている。いずれも受注製作で手仕事なので、それぞれに個性がある。興味深いのは、単に社としてのコレクションや商品見本の展示場ということではなく、古いお客さまから託された年代物が年々増えているそうだ。家の改築や家主の世代交代で役割を終えた家具たちが製造元に還流してくる。なんと稀有なことではないだろうか。持ち主が大切に、そしてメンテナンスに会社も真摯に対応していたからこそのつながりと見るべきだろう。
これまでわたしも都内の美術館や音楽ホールなど、おもに公共空間で、ナカシマの椅子に接してきた記憶がある。大きくて、重くて、存在感があって、とても個人宅で持つものではないと思っていたけれど、今回の取材を通して、いくつかの椅子を座り比べたり、座り方を教えていただくことで、ナカシマのデザインと木の質感がからだに心地よくフィットすることを体感した。どうしても、日本人は座面に浅く「腰かけ」がちだが、本来は座面に深く腰をおき、背もたれにからだを自然に委ねるのが西洋の椅子文化というものらしい。記念館や1階のショールームで、いくつもの椅子に座らせていただき、座面の高さ、背もたれの傾き具合によって、仕事用、食事用、居間などでのくつろぎ用など、生活シーンにあわせたデザインが仕分けられていることがわかった。
靴と椅子。明治以降日本に西洋から入ってきて、もう150年以上経つにもかかわらず、20世紀の機械生産、大量消費時代も重なって、「かたち」だけは定着しても、なかなかその本質的な「身体性」が理解されずにいるのかもしれないと、あらためて考えた。