アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#13
2014.01

暮らしのなかの「うつくしいかたち」

後編 結びあい、育ちゆく芸術と手しごと
6)永見眞一の仕事展

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ところで、永見会長の卒寿を祝う「木の聲を聴く マエストロ永見眞一の仕事展」が2013年秋、大阪で開かれた(阪急うめだギャラリー、2013年10月30日-11月4日)。65年に及ぶ家具づくりの集大成であり、その師ともいうべきナカシマの名作家具が広大なフロアに並べられた。ふだんはオーダー仕上げの家具なので、このようにすべてを一度に見ることができる、貴重な機会である。さらにまた、永見会長を慕う現代作家と桜製作所がコラボレーションしたオリジナル・プロダクトも展開された。作家たちは、ファッションブランド「ミナ ペルホネン」を主宰する皆川明、建築家の中村好文、木工デザイナーの三谷龍二、漆作家の赤木明登、陶芸家の安藤雅信、陶芸家の内田鋼一、ガラス作家の辻和美、環境および工業デザイナーの喜多俊之、グラフィックデザイナーの山口信博、そして奈良「くるみの木」オーナーの石村由起子。今のものづくりを代表する、錚々たるメンバーである。
わずか1週間という展示期間だったが、遠方からをはじめ、多くの方々が観に来られた。老若男女と幅広かったが、作家のファンの20代30代の若い世代なども来場し、実際に椅子に座って、座り心地、また触り心地を確かめていたという。「今までにない、新しいお客さんに出会えたな、と思いましたね。広がりを感じました」。ジョージ ナカシマ記念館の永見三智子さんはそう語った。

エントランスのようす

エントランスのようす

オープニングにも多くの方々が集まった

オープニングにも多くの方々が集まった

ナカシマから永見へ、そして永見から皆川世代へと受け継がれつつある「ものづくりのあり方」については、展示開催に合わせて出版された書籍にも詳しい。『ジョージ・ナカシマからミナ ペルホネンへ』(リトル・モア、2013)。「かけすぎる時間と、かけすぎるコストは、果たして無用なものだろうか?」という永見会長の問いかけ。「時間をかけることがすなわち価値なのではなく、クリエーションに必要な時間をかけた仕事には、それだけの密度や濃さが生まれ、そこに生命力が生まれるのだと思う」という皆川さんのレスポンス。
家具とファッションというジャンルの違い、また父と子ほどの世代をも越えて、真摯なものづくりやデザインについて、つくり手と使い手のことなどを豊かに語り合っている。ふたりの考えや仕事への取り組み方は、実はごく当たりまえなはずなのに、それが忘れられがち、という現実にも気づかされる。
これまでのアネモメトリ特集等で取り上げてきた、全国で同時多発的に生まれてきている「手しごと」「生活工芸」への関心という同時代現象が、縦軸にその起源をたどりはじめた。わたしたちが美術や工芸、デザインの歴史をあらためて見直していかなくてはいけない必然性は高まる一方だ。