アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#12
2013.12

暮らしのなかの「うつくしいかたち」

前編 民家博物館「四国村」と現代美術の出会い
1)四国村の“無何有郷(むかゆうきょう)ユートピア”
「無何有郷−ユートピア−身近にある理想郷への手がかり」(2013年7月6日-12月1日))

「無何有郷−ユートピア−身近にある理想郷への手がかり」(2013年7月6日-12月1日)

ここ10年ほど、現代美術の展覧会関連で四国、香川に出向く機会が増えた。直島ほかベネッセのアートサイト、瀬戸内国際芸術祭、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、そして日本の戦後美術の良質なコレクションで知られる高松市美術館など。その度に瀬戸大橋を鉄道で渡ったり、船に乗る。その時に気づくのは、瀬戸内地域の独特の地形だろう。比較的小ぶりな島がすっくりと海面から顔を出し、山が地面からこんもり盛り上がっていて、島や山のかたちを把握できる。その稜線が水平線、地平線につながっていく「際(きわ)」が見える。そうした個性的な「かたち」に出迎えられながら、それぞれの文化施設を訪れる。ある種のイニシエーションとでもいっていいだろうか。今年2013年はとくに、二度目を迎えた瀬戸内国際芸術祭が春、夏、秋と会期を分散して開かれ、長期間にわたっていることと、2010年の第一回の経験を踏まえて周辺の文化施設が自主的に「なにか」をしかけてきているため、何度も瀬戸内海を渡ったような気がする。三つの大竹伸朗展(高松市立美術館、猪熊弦一郎現代美術館、瀬戸内芸術祭・女木島)はシンボリックなものだった。
そうした「なにか」のひとつ、高松市内屋島にある「四国民家博物館」を8月末、真夏の終わりにたずねた。地元では「四国村」と親しみを持って呼ばれ、家族連れの週末の車でのおでかけスポットとして定着しているようだが、全国的な知名度といえばほぼないに等しいかもしれない。「民家園」的なものは、たとえば神奈川県川崎にある日本民家園など、各地域にあるのだろう。だからこそ、わざわざ旅先でまでそうした文化施設に行くことはあまりないのも不思議ではない。わたしたちの今回の目的は、この民家博物館を舞台に開かれている現代美術と建築との領域横断的な展覧会「無何有郷―ユートピア―身近にある理想郷への手がかり」である。