アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#11
2013.11

しょうぶ学園 ― ものづくり、アート、創造性 ―

後編 真にクリエイティブな環境の実現
4)学園に魅せられ、応援するひとたち
利用者が毎日手書きする、パン工房「カリヨン」の看板の文章を集めた『カリヨン黒板日誌』(パルコ出版)

利用者が毎日手書きする、パン工房「カリヨン」の看板の文章を集めた『カリヨン黒板日誌』(パルコ出版)

otto & orabu のライブを収めたDVDも発売されている

otto & orabu のライブを収めたDVDも発売されている

翁長ノブ子さんの作品は独特のグラフィカルなセンスが光る。ファッションデザイナーの皆川明さんも大変気に入られた

翁長ノブ子さんの作品は独特のグラフィカルなセンスが光る。ファッションデザイナーの皆川明さんも大変気に入られた

テキスタイルアーティスト・大高亨さん。 しょうぶ学園の巡回展を企画して以来、親しい交流が続く

テキスタイルアーティスト・大高亨さん。しょうぶ学園の巡回展を企画して以来、親しい交流が続く

しょうぶ学園の考え方に感銘を受けたり、クリエーションに心を打たれたひとたちのなかには、ファンとなって応援するひとが少なくない。アーティスト、美術大学の教員や学生、ギャラリーやクリエイティブ関係者など、ものづくりにかかわるひとたちにとくにその傾向が見られる。

しょうぶ学園の展覧会や otto & orabu の活動に全国から要望があるのもその一つの証拠だろう。たとえば、パン工房カリヨンで働く伊藤勇二さんの黒板エッセイが『カリヨン黒板日誌』と題して出版されたり、otto & orabu の音楽がファッションブランドのテレビCMに使われたりしているのも、しょうぶの魅力に着眼したクリエイターがいたからだ。ミナ・ペルホネンのデザイナー、皆川明さんは2005年に雑誌『装苑』の企画でミナ・ペルホネン・デザイン大賞テキスタイルデザイン部門に翁長ノブ子さんを選出して以来、しょうぶ学園と交流を重ねてきた。

1999年にしょうぶ学園を知り、その活動や作品に魅了されたテキスタイルアーティスト、大高亨さんもその一人だ。大高さんは鹿児島で自身の個展を開催した際に、しょうぶ学園を訪問し、数々の作品を見て「胸を焦がす」経験をしたという。テキスタイル製品の開発や大学の染織教育の現場では目にすることのない「無作為、無欲でわがままな作品」にショックを受けたのだ。彼は作品を多くのひと、とくに教えている大学の学生たちに見せたいという衝動に駆られたのであった。

———最初にしょうぶ学園でヌイ・プロジェクトを見た時に、これはアートとしてギャラリーで展示したらどうですか、と福森伸さんに提案したんです。その頃の学園は今ほどヌイ・プロジェクトに確信的ではなかった。アウトサイダー・アートということばもありましたが、単純にアートとしてすごいのだから展覧会をやりましょう、と。

彼は作家として制作する側であり、他人の展覧会を手がける気になったのは初めてだった。そうして懇意にしている画廊に声をかけて、1999年から2000年にかけて東京、福岡、秋田、京都、鹿児島の全国6ヶ所を回る『工房しょうぶ アウトサイダーアート全国巡回展』が実現したのである。

京都のギャラリーオクトでは、しょうぶ学園の利用者3名に来てもらい、彼らと同じ空間、時間を共にしながら、来場者がひたすら縫うというワークショップも企画している。その意図するところは、しょうぶ学園の自由に制作できる環境の素晴らしさを体験し、作為のないものづくりを試みてみようということであった。

以来、大高さんはしょうぶ学園をしばしば訪れるようになった。時には染織を学ぶ学生たちを引率して学園に滞在することもある。

———学生は驚きますね。彼らには、クリエイターとして、これと違う価値をどう組み立てるか考えなさい、と言ってきました。なかには制作できなくなる学生もいるんですが。でも、逃げても仕方ない。しょうぶ学園の作品は「もう一つのつくり方」、無意識の所作からつくられているのだから、同じことをするのは無理なんです。それを見たうえで、自分は何を作るのか、向き合ってほしいのです。

彼自身テキスタイルのクリエイターとして、ヌイ・プロジェクトの作品には大いに刺激を受けた。

———自分の作風とはまったく違うので、制作面で影響を受けることはありません。しかし、ヌイの作品には、圧倒的な縫う作業の時間が蓄積されている。しかも一点もので、それぞれが個性的。見ると、作品として自分がほしくなる。それに、彼らが自由に制作している環境を見たら、作家としてというより、何かお手伝いしたくなるんです。