2)「シームレス」であること
太田市美術館・図書館は2017年春、かつて駅前のロータリーだった場所に開館した。「駅前にひとが集まるような文化交流施設をつくりたい」という市長の提案により、プロジェクトが始動。市長の一言からもわかるように、リサーチや需要の結果生まれた施設ではなく、長らく更地の状態が続き、閑散としていた駅前に親子連れが集えるような場所をつくるという命題から始まったということは太田市美術館・図書館を語るうえで重要なポイントである。
車での移動が市民の足であり、平日の駅前には人影もまばらな太田市には、すでに4つの図書館が存在した。つまりあたらしい施設に求められたのは、公的な情報インフラではなく、ひとが集い、駅周辺を活性化させるための空間だった。
そこで白羽の矢が立ったのが建築家の平田晃久。彼が提唱する「からまりしろ」というコンセプトは結果としての建造物だけではなく、この施設ができる過程にも織り込まれている。館長補佐の富岡義雅さんによると、設計の最初期段階から市民の声に耳を傾けたそうだ。
———設計のワークショップっていうのはふつうはないらしいんですけれども、我々は設計のなかに利用する方たちの生の声を反映したいっていうのがあったんですね。だから設計者を選ぶときの条件に、市民と一緒にできるワークショップやフィールドワークを提案してくださいっていうのを入れていました。そういったなかで平田さんの提案がとても素晴らしくて、基本設計をつくる半年間のあいだに5回ワークショップを開催しました。
設計のプロセスに市民の意見を取り入れ、何度もワークショップを開催しながら、建築家と利用者の境界を取り払い、双方の意見の「からまりしろ」を有効に取り入れた構造が生まれた。
たとえば、当初美術館と図書館は1つの敷地内にセパレートに存在する案が提出されたが、市民との対話によりそれらは次第に交わり、最終的には1階2階3階それぞれに美術館のエリアと図書館のエリアがあって、自然に混ざり合うような基本設計が完成する。利用者と市、建築家と市民の境界を取り払った結果、美術館と図書館は二重螺旋構造で共存し、「・」でつながれることになった。
駅の北口を出てすぐに目に入るのは、緑に囲まれると同時に、屋上にも樹木の生い茂る館の姿。入ってすぐのフロアでは、地元の人気コーヒー店「KITANO SMITH COFFEE」が営業する。館の周りと屋上をつなぐ緑は外側と内側の境界を曖昧にし、ローカルなコーヒーショップはまちと施設を地続きにする。コーヒーショップの奥から美術館へ向かうスロープには、企画展の関連書籍やグッズが販売され、建物の内部に吸い上げられるようにして、アート、そして書の森への道が緩やかに続いている。
市民との協働、外側と内側、まちと施設、そして本とアート。すべてがシームレスにつながり、ひとを集める。その渦は太田市内にとどまらず、県外からも観客をよびよせている。