1)つながり、重なり合う2つの領域
東武伊勢崎線太田駅を下車し、北口を出ればすぐ正面にSUBARUの工場が目に入るほか、商店はほとんど見当たらない。群馬県太田市は大正期よりものづくりのまちとして栄えたが、近年の人口減少や郊外化とともに駅前は閑散とした状態が続いていたという。空が開けた静けさの漂う駅前に、ガラス張りのモダンな建物は否が応でも目に飛び込んでくる。案内図に目をやるまでもなく、徒歩1分で館に着いた。
名称からもわかるように、ここは美術館と図書館の複合施設である。「・」(ナカグロ)でふたつの館が並列に繋がれているとおり、2つの別の建物が同じ敷地内に存在するのではなく、同じ建物のなかに図書館と美術館、2つの機能が内包されている。それは構造的にも、館内で扱う展示や書籍に関してもシームレスな構造が採用されている。どちらか一方がもう一方を支えているのではなく、美術と図書のあいだに共通点を見出し、重なり合う領域に利用客を呼び込む意図を感じさせる。学芸員の小金沢智さんによると、「3階建てというのは決まっていたんですけれど、1階を美術館にしますとか、2階を図書館にしますとか、そういう分かれるプランも最初はあったんですが、そうではなく、それぞれが同じフロアにあった方がいいということでこういう建物に」なったという。この過程に関しては次項で詳しくふれる。
書庫は持たず基本的には開架のみ、雑誌数は250種と決して多くなく、いわゆる週刊誌の類はほとんど置いていない。新聞は当日分のみ設置、図書資料ではなくサービスとして扱う。絵本や児童書、アート関連書の比率が高く、小説や文学作品が少ないことにも同館の特徴がよくあらわれている。ここを訪れた利用客は、暇つぶしのための滞在場所でも、調べ物をするための施設でもなく、書物のある空間を能動的に堪能してほしいという館からのメッセージを感覚的に受け取ることができるだろう。