アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#4
2013.04

「エフスタイル」がつむぐ、あたたかな「循環」

前編 エフスタイルのものづくり 新潟

わたしたちの身の回りは、「商品」であふれている。もう少し正確に言えば、「宛先不明の商品」であふれている。売り場の店員も把握しきれないほど多くの品物が並ぶ、大型洋服店や電器店。「タイムセール」「ラスト1個」などの煽り文句で衝動買いを誘うネットショップ。すぐれたものもあるが、後悔するものも多い100円均一の店。「これは誰のためにあるのだろう?」「こんなにつくって、売れ残ったらどうするのだろう?」「こんなに安く売られて、つくっているひとはどうやって生活しているのだろう?」。陳列棚に所狭しと並べられた商品たちを前に、そんな問いが頭をよぎることもしばしばだ。

ものはたくさんあるのに、これぞというものに出会えない。それは、生産者、デザイナー、小売店が、“消費者にうまく出会えていない”ということではないだろうか。「生産者の持つ技術で作り得るもの」と「消費者が必要としているもの」がすれ違ってしまっている。“ものが売れない不安”だけに急かされて、「とにかくつくる」「とにかくデザインする」「とにかく売る」という悪循環が起こっている。

その傾向は、各地方の地場産業において特に顕著だ。ひとびとの生活スタイルや好みが細分化し、マーケティングや商品デザインの知識がほんの少し足りないばかりに廃業に追い込まれる、中小企業の工場や伝統工芸の職人たち。日本の地域経済を支えてきたすばらしいものづくりの技術が、今、音も立てずにひっそりと消えつつある。

そんななか、10年以上も前から、生まれ育った新潟の地場産業と手を取り合い、独自のものづくりを続けてきた2人の若い女性がいる。彼女たちの名は「エフスタイル」。手がけるのは、“製造以外で、商品が流通するまでに必要なことすべて”だ。

生産者が心からつくりたいと思えるものを共に探り、それを自分たちが心から欲しいと思えるかたちにデザインし、それを心から売りたいと言ってくれる小売店に卸す。この当たり前のようでいて、なかなかできない「すこやかな流通のかたち」を、彼女たちは大学を卒業した20代の頃から、模索し、実践し続けてきた。

「わたしたちの仕事は、ゼロからものをつくることでも、斬新なものをデザインすることでもありません。ただ今あるものを生かし、循環させること」

そう話す2人に会いに、新潟へ向かった。

検品・出荷作業を行うエフスタイルの星野若菜さん(手前)と五十嵐恵美さん

検品・出荷作業を行うエフスタイルの星野若菜さん(手前)と五十嵐恵美さん