5)「今あるもの」でつくる
そうした行商を続けるなか、HOUSE doggy matを店で見かけたメーカーが「一緒に何かやりませんか」と連絡してきたり、ひとづてにニットや織物の製造会社を紹介されたりして、少しずつ地場産業のつくり手たちとの出会いも増えていった。
———地元にこれほどたくさんの地場産業があったことに驚きました。わたしたちも最初からそれを知っていたのではなく、仕事をやるなかで気づいていったんです。(五十嵐)
つくり手に出会うと、マットづくりの時と同じように、まず製造工場や工房を訪ねた。大きな織機でガッシャン、ガッシャンと音をたてながら織り上げる、地域伝統の生地。山間に自生する木の皮を使い、村で古くから編まれてきた肩掛け篭。米をはじめとする穀物の選別作業に使われてきた農作業用の曲げ物のふるい。生産者の現場を訪ねるたび、「どうしてこんなにすごいものが知られていないのだろう」と心をつき動かされた。そして、興味のおもむくままに、製造工程や歴史、今抱える悩み、仕事をする上で大切にしていることなどを聞くうち、どちらからともなく自然とものづくりがスタートし、商品も増えていった。
地場産業のつくり手たちと商品開発をしていくにあたり、2人が思い出していたのは、あの大学のワークショップを通して自分たちのなかに芽吹いていた、ある「感覚」だった。
———自分たちは、ゼロからものをつくることにあまり興味がない。そこに何かのベースがあって、それをどう生かすかということの方に興味がありました。現場にいい技術やいい素材がすでにあるのに、それ以上にまだ新しい何かをする必要はない。もうここにあるじゃないか、と。そのことに満足するし、そしてすごくリアルだった。(五十嵐)
星野さんも言う。
———わたしたちがずっと大事にしてきたことがあります。それは“今あるものでつくる”ということ。うそをつかない。かっこつけない。つくり手さん自身がさわり慣れている材料で、かつ自分たちもいいと思えるもの。そういうものを大事にしながら、商品開発を進めていきました。(星野)
そしてエフスタイルのものづくりにおいて、決してひっくり返らない「順番」がある。
———つくりたい商品があって工場を探す、ということはしないんです。つくり手さんにお会いする時点では、何をつくるかは決めていません。まず現場を知り、今後進みたい方向をお聞きしながら、つくり手さん自身が得意な技術を生かすもの、つくり手さん自身がつくりたいと思えるものをうまく表現できるようサポートしていきます。わたしたちが現場に行くと、“本当はこういうものがつくりたかった”と話し出す方が多いんです。その時、思います。このひとたちに無理させてたものは何だろう、って。(星野)