アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#4
2013.04

「エフスタイル」がつむぐ、あたたかな「循環」

前編 エフスタイルのものづくり 新潟
9)豊かであたたかな「循環」を目指して
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あたたかい光をともす夕方のショールーム。周囲にも工場や倉庫が多い

1階併設のキッチン。神棚には骨董市で見つけてきたという猿の木彫り人形が飾られていた

1階併設のキッチン。神棚には骨董市で見つけてきたという猿の木彫り人形が飾られていた

福島のセレクトショップによるイベント 「 PICK-UP since 1982 」(エフスタイルのショップ&ショールームにて。写真提供:エフスタイル)

福島のセレクトショップによるイベント 「 PICK-UP since 1982 」(エフスタイルのショップ&ショールームにて。写真提供:エフスタイル)

エフスタイルの2人の口からは、「つくる」「売る」という言葉に加えて、「伝える」ということばが頻繁に出てくる。それは具体的にものの生産背景を第3者に「伝達する」という意味も持つが、それ以上に、もっと豊かで抽象的なものを「つむぐ」という意味も含んでいるように思う。必要とされるものをつくり、かつそれを必要とするひとの手に確実に届けること。無理なく、無駄なく、ものづくりのループの端と端をむすぶこと。一見、当たり前のように思えるこの作業が、誰とも話さず、誰とも会わなくても1クリックでものを買うことが可能になった今、放置されて久しい。選択肢は山のようにあるのに、自分にとって本当に必要なループの端を自力でつかまえるのは至難の業だ。

———おいしくないのにおいしそうに見せたり、一時的に気分を盛り上げて買わせたり。そういうことが増えすぎていると思う。わたしたちは、まず自分の今の生活で使いたいかどうか、本当に買うのかどうか、という冷静なお客さんの目線で商品を開発します。つくり手さんや売り手さんはもちろん、わたしたち自身が本当にほしいと思えるものを伝え、それを通して誠実なお金をもらいたいと思う。(五十嵐)

つくること、売ること、伝えること。その循環がもたらす豊かさ、あたたかさを、エフスタイルは生み出し、伝え続ける。新しいショールームは、その「循環」をさらに豊かにするための空間でもある。

———12年かけて、エフスタイルというすごろくを1周したというような実感がありました。自分たちが無理なく抱えられる、可もなく不可もないちょうどいいサイズで、さまざまなつくり手さん、売り手さんに出会い、それ以外のつながりもできた。その蓄積を、この新しい空間で循環させていけたら。(星野)

1階のショールームでは、これまでの活動のなかでつながりを深めた小売店やものづくりに携わるひとたちを招いての展示販売展を主催することもあり、月に数回はこの大きな倉庫跡がひとでいっぱいになる。そんな時、2人はひそかに「ラボ」と呼ぶショールーム併設の小さなキッチンに入り、そっと会場のにぎわいを眺める。

———ひとはたくさん来てほしいけど、わたしたちはすみっこでいいんです(笑)。場をつくることは好きだけど、そのにぎわいのなかにわたしたちはいなくてもいい。自分たちの手から離れたところで、ひとやものがつながっていくこと。それを嬉しいと思う。(五十嵐)

エフスタイルの「エフ」は、鉛筆の硬さを示す記号の「F」。HとHBの間、硬すぎずやわらかすぎない“真ん中”でありたい、との願いを込めて名付けた。2人はこれからもずっと生まれ育った新潟で、エフスタイルとして活動していくと決めている。今日もみんなにとって心地よい “真ん中”を探し、そこから「循環」という名の、小さくも豊かで、あたたかな波紋を広げようとしている。

次号では、現在エフスタイルが取引するつくり手と売り手の現場を訪ね、実際にどのようなものづくりを行い、どのような「循環」が生み出されているのかを探っていきたい。

写真左手の階段に続く2階には、レンタルスペース「CONTAINER」を新たに設けた。ケータリングや個展など、さまざまなイベントを申し込み制で受け付ける

写真左手の階段に続く2階には、レンタルスペース「CONTAINER」を新たに設けた。ケータリングや個展など、さまざまなイベントを申し込み制で受け付ける

エフスタイル ショールーム
新潟県新潟市中央区愛宕1-7-6 tel:025-288-6778
月・土曜の11:00~18:00(週2日のみ営業/企画展中は日曜も営業)
※臨時休業の場合あり。遠方から訪問する場合は、事前に電話かメール(mail@fstyle-web.net)で確認のこと

エフスタイル ホームページ
http://www.fstyle-web.net

参考文献
『エフスタイルの仕事』(五十嵐恵美+星野若菜・アノニマスタジオ)
『サヨナラ、民芸。こんにちは、民藝。』(里文出版)

取材・文:姜 尚美
編集者、ライター。出版社勤務を経て、現在はフリーランスで雑誌や書籍を中心に執筆活動を行う。
著書に『あんこの本』『京都の中華』、共著に『京都の迷い方』(いずれも京阪神エルマガジン社)。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’sKEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。

編集:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。最新刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵庫から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。限定本http://book-ladder.tumblr.com/