3)「本のまち」として進化する 仙台
仙台には本があふれている。本の文化に厚みがある。
外から見た第一印象はそうだった。知るひとぞ知る名物のブックカフェがあり、名物の書店員がいる。まちに寄り添うリトルプレスに、仙台のひとやことを取り上げる出版レーベルがある。小規模ながら本をめぐるワークショップなども定期的に開催されている。
さらには小さな動きが発展し、6月のひと月間にわたって行われるイベント「Book! Book! Sendai」も立ち上がった。まち全体を巻き込むように、本のマーケットやトーク、ワークショップに加えて、飲食や雑貨なども充実した楽しい催しが年に1回、1ヵ月にわたって繰り広げられるようになったのである。仙台は「本のまち」として、たしかに進化を続けている。
その動きには中心となるひとがいる。古本とカフェ「火星の庭」の店主、前野久美子さんだ。店を営むかたわら、本にまつわる企画イベントや出版、講座やワークショップなど、思いつくアイデアをたぐいまれな行動力で実現してきた。店や本を通じて生まれたつながりを大切に、何か始めるたびに仲間を増やし、楽しく盛り上げて、ともに大きなこともやり抜いてきたのである。
前野さんはいつも、ひとの輪の中心にいる。「単に宴会部長なだけで」と笑うけれど、前野さんに会ったなら、どんなひともいっぺんに前野さんが好きになってしまうだろう。相手を緊張させず、話を聞いてくれる懐の深さ。人並み外れてパワフルで、明るく豪快な姉御肌だが、何より心が広くてあたたかい。みんなに慕われるのもよくわかる。
前野さんが「火星の庭」を始めてからの12年はそのまま、仙台に本文化が育っていく過程と重なっている。