2)広がる東北発信
たとえば、盛岡発の『てくり』。リトルプレスを置いているような書店であれば、たいてい見つかる。ひとを写した写真が表紙で、スタンダードなつくりだが、間口が広く親しみやすい、かつしっかり読ませる内容である。
また、横長のサイズが可愛い『oraho』は会津発。土地のひとになじみ深い赤べこの表紙が目をひく。会津の伝統的なものやことを、愛情をもって紹介している。仙台の『ふきながし』は、手づくりの匂いが漂い、よりパーソナルに、伝えたいものごとを楽しみながら紙面にしている空気が伝わってくる。
それぞれが唯一無二だけれど、ものすごく個性にあふれているとか、他にはない雑誌ということではない。大切なのは、盛岡の、会津の、仙台のまちと生活に根ざして、ひとの想いや素敵なものごとをていねいにすくいとっているところである。
震災の後に出た『せんだいノート』(三樹書房)は、とにかく密度濃い。フリーペーパーの「仙台・宮城のミュージアム情報誌」として刊行を予定していたが、東日本大震災が起こって出せなくなってしまった。その後、再建への第一歩として「ミュージアム」を広くとらえ、土地に根ざした身の回りにある大切なもの、土地に育まれてきた文化や歴史を幅広く取り上げ、出版された。
また、ちょっと毛色の違うところでは『Mi amos TOHOKU』がある。東京在住のイラストレーター、小説家、写真家、デザイナーの女性4人のユニット「kvina(クビーナ)」と仙台の編集プロダクション「SHOE PRESs(シュープレス)」が東北6県をまわって、彼女たちの視線でまちを紹介する小さな観光ガイドだ。東日本大震災の後に、東北のことを知りたい、という想いから始まった。ちなみにタイトルは、エスペラント語で「東北が好き」という意味という。
このくらい東北発の雑誌がたくさん出ていると、書店でもまとめて置いてあったり、コーナーのように展開されていたりもする。その一冊一冊とボリュームを見ていると、東北には草の根的な「伝えること」への想いがあるように感じる。もちろん、ごく一部のことかもしれないけれど、伝えたい想いが伝わってくるのだ。
そしてもうひとつ、興味深いのはローカルマガジンをはじめ、本や雑誌を通じてひとやまちがつながり、動いているということだ。新しいタイプの地域出版をはじめ、本をテーマにしたフェスティバルやイベントまで起こって、その動きが東北全体に広がってきている。
「本」と「ひと」と「まち」は、どのようにつながってきたのか。そして、それはどのように広がり、育ってきているのか。主に仙台と盛岡を取り上げて、今回と次回の二回にわたり、これまでと現在を見ていきたい。