アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#50
2017.07

移住と仕事のいま

4 「今、ここ」を生かし、未来をひらく 奈良・東吉野村
5)「今、ここにいる」ことをぞんぶんに生かす

『アネモメトリ』はこれまで、さまざまな地域で起こった新しい動きを伝えてきた。
アーティストのレジデンスとITに力を入れる徳島県の神山に、地域のなかでものづくりの循環を考える長崎県の雲仙小浜。100年先を見すえた村づくりと森林づくりに取り組む岡山県の西粟倉村に、行政・島民・移住者が一体となって再生した島根県の中ノ島・海士町……。地域の特性を生かした取り組みに引きつけられ、都市から移住する若い世代も増えつつある。
そのなかにあって、東吉野村の個性とは、オフィスキャンプやルチャ・リブロなど、さまざまな場があり、ひとの層が厚いところだろう。移住者たちはそれぞれのペースで仕事をしながら、時と場合に応じて、ゆるやかにチームを組み、プロジェクトなども手がける。「今、ここにいる」ことをぞんぶんに生かしながらも、居場所については、柔軟に考えている。それは、これからの移住のありかたにもつながっていくように思える。

坂本大祐さんは、共感する日本の各地域とつながり、交流するなかで、自分たちの世代と、移住のこれからについての考えを深めている。

———父たちは、団塊世代特有のフロンティア精神で居場所を確保した、移住第1世代です。その次に移住した僕ら第2世代は、親世代の切りひらいたフィールドの上に新しい可能性を試しながら、各地のムーブメントをつなげて大きなコミュニティを生み出している。
やがて訪れる第3世代は、地方で暮らす物理的なネガポイントが払拭される最初の世代だと思う。第1、第2世代の礎も、新しいインフラも活用しながら、あたりまえに地方で暮らしていくでしょう。

大祐さんは「今の大学生や社会人1年目のひとたちは、僕たちよりもっとリアルに、こんな流れを感じ取っている気がしてならない」と言う。「今は過渡期で、僕らは第1世代と第3世代の橋渡し役でもあると思います」とも。
和之さんたち第1世代が新しい生き方を切りひらき、大祐さんをはじめとする第2世代が身の丈にあった生きかたを求めて「今、ここ」で力を尽くしている。そのバトンは、もうすぐ次世代に手渡される。それは地域のなかに自然なつながりを生み、やがては地域という枠を越えて、のびやかな風を渡らせるだろう。

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人文系私設図書館Lucha Libro
http://lucha-libro.net

オフィスキャンプ東吉野
http://officecamp.jp

取材・文:渡辺尚子
ライター、編集者。「手から生まれるもの」をテーマに、雑誌や単行本の執筆をおこなっている。著書に『ひかりのはこ スターネットの四季』(アノニマ・スタジオ)、『うれしい手縫い』(グラフィック社)他、共著に『糸と針BOOK』(文化出版局)、『創造の現場。』(CCCメディアハウス)など。「暮しの手帖」で「ひきだし」を連載中。たねや冊子「ラ・コリーナ」の取材もおこなっている。

写真:石川奈都子
写真家。建築、料理、プロダクト、人物などの撮影を様々な媒体で行う傍ら、作品発表も精力的に行う。撮影を担当した書籍に『而今禾の本』(マーブルブックス)『京都で見つける骨董小もの』(河出書房新社)『脇阪克二のデザイン』(PIEBOOKS)『Farmer’s KEIKO 農家の台所』(主婦と生活社)『日々是掃除』(講談社)など多数。

編集:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。