アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#123
2023.08

千年に点を打つ 土のデザイン

2 土から生み直す 常滑の底力
4)滑らかな焼きもの 丸よ小泉商店1

常滑急須の伝統をいかに受け継ぎ、この先どう展開していくのか。国内外の顧客に、どんなアピールができるのか。自らに問いかけ、動き始めた問屋がある。
丸よ小泉商店」は1949年創業の急須を主体とする問屋だ(以下、丸よ)。高橋さんがプロジェクトに関わるかたちで、新しい急須ブランド「chanoma」を2021年10月に立ち上げ、展開している。
丸よ社長の鯉江一さん(以下、一さん)、営業本部長の岩附由加里さんは、高橋さんの「とんがっている」という噂を聞きつつも、デザイナーと仕事する必要性も感じていた。

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右から鯉江一さん、岩附由加里さん(「chanoma」プロジェクトプロデューサー・ディレクター)。急須のフォルムを「丸よ」に掛け合わせたロゴデザインは、高橋さんによるもの

———常滑ローカルの高い技術と普遍的なデザインの掛け算がしたいとずっと思っていまして。でも、自分ではできないわけですよ。高橋さんはデザインのスキルときちんとしたお考えがあって、地元で深くローカルな産品の研究をなさっている。その両面が必要だったわけです。(一さん)

———三重だったら赤福、常滑だったら急須、っていうのをつくりたかった。これまでの急須は古くさかったりもしますけど、いいところを生かしつつ、今の生活に合わせたものをつくりたくって。いろんな思いがあって、それを高橋さんにぶつけました。(岩附さん)

丸よのやりたいことは明確で、よく整理もされていた。問屋の立ち位置から、常滑焼のこれからを切り開いていこうとする丸よは、高橋さんにとっても、協働しがいのあるクライアントだった。

———プロデュースや企画をすることは、問屋さんのひとつの大命題じゃないかなと思っていて。それをしないと、他の売り手と同じものを扱うことになってしまう。「chanoma」を一緒につくらせてもらうなかで、そういったことを具現化する方向に取り組ませてもらっている感じですね。(高橋さん)

「chanoma」の立ち上げに先立って、2019年の9月、高橋さんは丸よ1階のリニューアルを自ら施工した。
朱泥(*)急須に初めて出会うような若い世代にも、海外の客にとっても分かりやすいイメージを与えるようと考えた。
この場所を特徴づけるのは、常設の展示スペースである。土づくり、型づくり、焼きと、ふだん目にすることのない急須づくりを、量産と作家仕事の双方から見せている。

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作家仕事の展示。江戸時代から受け継がれる急須づくりの全プロセスがわかる

———製土工場で調合された土で、石膏の型でつくる急須と、土づくりからろくろで回して手でつくる急須と。2つの急須のプロセスを見てもらえたら、と。こういった急須の細かなところは他の産地では見られないと思います。

そもそも、常滑急須はストーンウェア(炻器)で、釉薬をかけない焼き締めである。産地では当たりまえでも、意外と知られていない事実を、高橋さんはもっと広く伝える必要があると考えた。

———ストーンウェア、炻器って、使い込むほどに艶が出て、土そのものの色や手ざわりを感じられ、経年変化を楽しむことができます。光を吸収してくれるので、控えめな存在で。中世の常滑焼も自然釉はまとっていますが、ストーンウェアです。今も昔も、焼き締め、ストーンウェアの一大産地として発信できていないと思った。
みんなで話し合う中で、きめ細かな常滑急須の触感と、常滑の滑をかけて「滑らかな やきもの」というコピーを打ち出せたら、と。作家が掘った土だけでなく、調合された土も常滑に起因しているし、全てが「滑らかな やきもの」として包み込まれるというか。それを改修の軸にしたんです。

「滑らかな やきもの」。「滑」は常滑の滑であり、釉薬をかけていないのに、土そのものの滑らかな触り心地のことでもある。常滑焼を表すのに、うってつけの言葉だ。

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朱泥急須は重厚な見た目に比べてわずか135gほど。常滑の技量が優れているから可能な軽さだ。こちらは、人間国宝の三代・山田常山に師事した伝統工芸士の村越風月さんの作品

(*)常滑の田んぼの土に代表される、粒子が細かく低温でもよく焼き締まる粘度の高い土。鉄分を多く含むため、焼くと酸化して赤くなる。