2)物量とエネルギー 「常滑らしい」場所を拠点に
高橋さんの仕事場は、常滑の象徴的なエリア「やきもの散歩道」の中ほどにある。
少し小高い丘の上で、あたりにはレンガの煙突が何本も立ち、コールタールで黒く塗られたトタンの工場跡などが点在する。かつて、窯業がどれほどさかんだったかを想像させる風景だ。
しかし、「常滑らしさ」はその眺めにとどまらない。ゆるやかに上り下りする細い道が、焼きもので埋め尽くされているのだ。土管や電らん管、焼酎瓶などが積み上げられ、その隙間にびっしりと生活雑器が詰め込んである。一部の路面は、土管の焼成時に使った焼き台が、模様を描くように敷きつめられている。脈絡なく、焼きものが渾然一体となった土くさい景色。現代アートなど吹っ飛ぶような凄まじさだ。
———窯業が盛んだったころのB品や窯道具です。なかには、この時代に習って近年つくられた塀もありますが。当時はたくさんつくったから出荷できない品もたくさん出て。でも、捨てるのもコストじゃないですか。だから、当時はみんな、まちで活用したんですよね。あるいは砕いて海に流したりとか。
形容しがたい景色に、明治以降の常滑窯業のありかたを目のあたりにするようでもある。この時代、さかんに生産されていたのは、土管やタイルなどの建築陶器や衛生陶器だ。職人たちが親方のもと、需要の大きい陶器生産が中心にあった陶業のまちなのだ。
ちなみに、明治に入ると、焼きものの燃料は薪に代わって、石炭が普及した。「常滑の雀は真っ黒」といわれるほど、石炭の煙がもうもうとあがるまちでもあった。
高橋さんの仕事場も、この界隈の記憶をとどめる。元は急須工場の建物で、青緑色の鉄骨などはもとのまま使っている。平成元年の完成だというが、昭和的な温かみがあって、懐かしさをおぼえる。
この空間に、高橋さんが手がけているプロダクトが、ごく自然になじんでいる。すっきりした佇まいの、やわらかい色合いの急須や湯冷まし。現代生活になじむ、モダンな食品保存用の甕。その隣に、各地の土で染めた布のあずま袋や、紙に土を漉き込んだきれいな色合いのカードもある。
どれも日常的なアイテムで、その幅は広いが、ほとんどが常滑を中心に、土から生み出されたものたちだ。自分の足下を素材に、さまざまなかたちをつくる。素材を生かした、まさに「地のもの」である。
高橋さんは大学でプロダクトデザインを学んだ。もともと、アイデアを考えてかたちにすることが好きだった。そして、良品計画で仕事を始めた当初は、自分のアイデアを製品化することに没頭していた。
———当時はプラスチックをデザインするのも、焼きもののデザインをするのも同じ思考でしたから。インハウスデザイナーでありながら自己中心的で、そこに作り手がいることなど二の次だったんですね。
「かたち」をつくるには素材があり、素材に取り組み、かたちにする誰かがいる。その回路がひらいたきっかけは、常滑のメーカー「山源陶苑」3代目・鯉江優次さんとの仕事だった。2007年、茶器をつくるプロジェクトである。