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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#121
2023.06

ゴミを「自分ごと」化する

一人ひとりの自分ごとを重ね合わせる 高知で服部雄一郎さんに聞く

6)「みんな」の自分ごと化、という希望

自分が暮らす場所のこととして自治体や国、世界の環境問題について知っておくことも必要だが、ゴミの現状をよく知る服部さんでも、常に正しい温度感で最新の情報をキャッチし続けるのは難しいという。だからこそ身近なことから始めて少しずつ前進すること、着実な進歩に焦点を当て、自分が納得できる情報を集めて発信している人を信頼することを大切にしている。そういう草の根的な情報の広がりが徐々に実を結んで、ものごとが大きく前に進むこともある。同時に、若者たちが異なる考え方を持っていることにも着目している。

———生まれた時からスマホがあたりまえにある世代は全然スタート地点が違うので、予想もつかない変化を起こしてくれそうな気がします。10年、20年経つと、予想以上にものごとが進化していることもある。SDGsは揶揄されたり否定的に言われたりもしますけど、僕はとてもいいゴールだと思っているんです。失敗はあるでしょうし、そもそもそんなに完璧にできるわけがない。グリーンウォッシュ(環境を装った宣伝方法)もよくはないけど当然起こると思う。そんな状況のなかでも、若い人たちがSDGsの本質を理解して、真摯に活動する姿にとても励まされます。社会がもっと寛容になって、お互いを許しあえるような雰囲気になったら、自己肯定感もアップして、もっとシンプルにいろんなことができそうですよね。

服部さんにそう言われてはっとする。すっかり言葉が一人歩きしているように感じていた「サステナブル」や「SDGs」だが、ほんの少し興味を持って若い世代や世界の動きに目を向けてみると、学校でSDGsを教わっているZ世代(1995年以降に生まれた世代)のサステナブル志向や、オランダが先導するサーキュラーエコノミー(循環型経済)など、その概念を生活や社会に柔軟に落とし込んで実現する動きがあると気づく。「これまではこうしていた」「こうあらねばならない」という慣習や思い込みを取り払うことも、ゴミを自分ごと化するには有効だ。

3回にわたって、さまざまなアプローチでゴミの問題に取り組む人々を取材した。それぞれの人が、それぞれの場所で素朴な疑問や違和感と率直に向き合い、身近なことから少しずつ歩みを進めていた。ひとりでも多くの人が参加できるようにとハードルを下げ、軽やかに活動を広げていた。どこに住んでいても、どんなライフスタイルを送っていても、どんな世代にもできることはある。それぞれの「自分ごと化」が重なり合って「みんなの自分ごと化」が少しずつでも進めば変化は起こる、そんな希望が感じられた。ゴミを見つめ直すことは、生活を見つめ直すことだ。それぞれの暮らしの積み重ねが未来になることを思い、楽しく心地よくできることから、一歩一歩前に進みたい。

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ゴミや環境問題に向き合う時、コンポストのように自然に還すプリミティブなことだけでなく、最新テクノロジーによる製品も活用することで、未来への応援にもなる。今この時代にできる、一人ひとりの「自分ごと」が重なり合うことで、豊かな風景が将来につながっていくのかもしれない

サステイナブルに暮らしたい(服部雄一郎さんウェブサイト)
http://sustainably.jp/
取材・文:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年東京都生まれ。京都在住。会社勤務を経て2013年よりフリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト等で企画・編集・執筆を行う。
写真:津久井珠美(つくい・たまみ)
1976年京都府生まれ。立命館大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。クライアントワーク以外に、人々のポートレートや、森、草花など、自然の撮影を通して、人や自然、写真と向き合いながら作品制作を行っている。https://www.instagram.com/tamamitsukui/
編集:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。
ディレクション:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。